第1555話 49枚目:疑問解答

 カバーさんにも来てもらって、フリアドの常識と召喚者わたしたちの知識をすり合わせて相違点を探す作業をする事しばらく。


「…………。これが竜族における「婚約者」の定義で間違ってないんですか?」

「はい! それにしても、世界が違うとこうも常識が違うとは……! 完全に盲点でした!」

「私達からしてもそうなんですよね。……もうありませんよね?」

「分かりませんので、今しばらくカバーさんをお借りしてもよろしいでしょうか!」

「カバーさん、大丈夫ですか?」

「とりあえず、次のイベントのお知らせ大神の啓示が来るまでは大丈夫ですよ」


 という事で、とりあえず婚約者については分かった。ニーアさんとカバーさんは引き続き情報のすり合わせをするという事で、一度席を外したが。

 それを見送り、話し合いの内容が書かれた紙を改めて見る。カバーさんが書いた奴だから、いろいろ注釈や矢印が書き込んであっても割と見やすい。とはいえ流石にこのままはどうかと思うので、確認がてら軽く清書しておこう。

 婚約者の話をする為には、まずその大前提となる話をしなければならない。ここが盛大にずれていたから難航したのだが、そのずれっていうのが実にフリアド特有だったという事が分かった。後は、召喚者プレイヤーは異世界とはいえ基本人間、っていうのも引っ掛かりだったな。



 何のことかって言うと、以前ちらっと魅力ステータスの時に話が出たのだが、魅了系のスキルは「種族レベルが近い程通りやすい」。これは何故かっていうと、そもそも「種族レベルが近い程恋愛感情が発生しやすい」という事に由来する。

 逆に言えば、「種族レベルが離れているほど恋愛感情は発生しない」。高くても低くても、その絶対値の差が大きければ大きい程可能性は低くなる。そしてそれには限界があり、種族レベルの差が1000を超えると可能性がゼロになるらしい。

 まぁそもそも種族レベルの上限が1000である徒人族(人間)には関係のない話だ。が……。他の種族、特に竜族には、割と絶望的な事実だったりした。



 何せ、竜族は強い。種族特性がステータスの暴力なのだ。つまりその種族レベルもお察しというやつで……種族レベル1000とか、もはや誤差の世界になる。自然に巡り合う、という事は、まずありえない。

 なおかつ、竜族には属性という概念がある。火属性と水属性、風属性と土属性、光属性と闇属性のように、相性が非常に悪い属性を持つ相手だと、それはそれで恋愛感情は発生しない。

 それでなくても寿命が長い分だけ子供が生まれにくいのに、放置すると絶滅待ったなしだ。じゃあどうすればいいか、という事で、まず出会いの機会を増やす為に、竜族、という括りで集団生活をするようになった。これが竜都の始まりだ。


「それでも誤差を埋めるには足りず、出来上がったのが、「婚約者」制度だったと……」


 うん。つまりな。

 ……種族レベルが釣り合う相手がいないなら、もう、相性が良さそうな相手を「育てる」しか無いよな?

 って、話らしいんだ。


「いや、分かるかこんなもん」


 確認しつつ清書しながらつい素が出てしまったが、分からんって。これは分からない。確かにそういう話が古典にもあるが、まさかそれが伝統で現役とか分かるか!?

 もちろん育て始める時はそういう感情は無い。どっちかというと年の離れた近所のお兄さんお姉さんと、という感覚に近いようだし、そもそも婚約者になるにはそれぞれの親の合意が必要だ。

 それでも他に好きな人が出来たりどうしても合わない部分があったりした場合は、婚約解消となる。割とよくある事らしいので、特に問題にはならない。とはいえ、大体の場合はそのまま結婚するらしいんだが。


「…………」


 さてここで、謎の「私の婚約者」についてだ。すっかり居る前提で話をされていたが……お分かりだろうか。

 そう。

 もちろん私は気付いてなかったし、あっちはあっちでそんなそぶりは一切見せていないんだが。



 私の婚約者、少なくとも外から見る分には――エルルなんだってさ。

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