第1553話 49枚目:筆頭様の話
しばらく雑談もとい歓談していると、給仕の人が来てお茶を出してくれた。良い匂いだな。同じポットから注がれているが、念の為先にルフェルが飲んでくれた。大丈夫だとは思うし何なら私の方が耐性は高いけど、一応ね。
筆頭様……立場が立場なので、名前は聞かないのが普通なので……もそれぐらいは当然と思ってくれたらしく、特に空気の変化は無かった。むしろ、ちゃんとしてるな、という安心材料になった気配もする。
で、その給仕の人も下がってしばらくしてから、僅かだが筆頭様の空気が変わった。これは、そろそろ本題に入るんだろうか?
「――ところで。末姫殿は、世にも稀な植物を数多く育てていると聞き及んでいる。聞けば、異界の薬草もあるとか……。これは、誠かな?」
「そうですね……まぁ、おおむね事実かと。とはいえ、農園を経営している訳でも、薬草を主とした取引をしている訳でもないので、数多く、と言えるかどうかは分かりかねますが」
……。なんか話が思ってなかった方向にいったな。そこは全くノーマークだったんだが。確かに効果があれな植物というか薬草毒草も育ててはいるが、フリアド世界で自生してるものしか流通には乗せてないぞ? 後は全部自家消費だ。主にルディルの研究や双子の罠(悪戯グッズ含む)で。
ふむ。と頷いた筆頭様。内心は疑問符が尽きないが、とりあえず何でもない風な皇女スマイルは維持しておく。しかし希少な植物。いやまぁ、本題が1つとは限らないし、何かを咎める感じの空気ではないんだけど。
「実は、本来なら非常に稀少で育つ場所を選ぶとある植物が、召喚者への手助けとして、一時期世界中に出現した、という話を聞いた。心当たりはあるかな?」
「召喚者への手助けとして、一時期世界中に…………。もしや、マナの花、と呼ばれる、私の手のひらに乗ってしまう程の花の事でしょうか」
「そう。それだ。なるほど、どうやら本当らしい」
まぁ、あの「遍く染める異界の僭王」を倒した時にも大量出現したが、その後もミニイベントで出現してたな。流石にあの時は属性付きのものばかりで、無垢なマナを宿した「マナの花」は無かったみたいだけど。
ミニイベントで出てきた時は、染料として使うから色が無いのは困るよなーと思っていたのだが、なんか雲行きが変わって来たな。シロツメクササイズの菊みたいな、色々便利に使えるのが分かって来たあの花に関する話だったのか。
とはいえ、「マナの花」自体はそれなりの
「種でしか増えず、いずれ枯れるとはいえ、それでも可能な限り根から採取して今も育てている召喚者は多い筈ですよ」
「うん。それは聞いた。聞いたんだが……」
言葉を濁し、僅かに目を伏せる筆頭様。気持ちを落ち着かせる為か、あるいは何か踏ん切りをつける為か、お茶を一口飲んだ。私は皇女スマイルを維持したまま、僅かに首を傾げる。
「……少し、恥ずかしい話でね。口外しないで貰えると助かるよ」
「分かりました。私が最も信じる神に誓い、この場での会話における具体的な内容は口外しません」
「同じく、我らが生まれ世界の神に誓いますメェ~」
ちなみにこの「具体的な内容」というのはニーアさんに教えてもらった。高確率で何かしらの秘密に触れる話が出るだろうから、そういう時は口外しない事を神への誓いという形で約束しつつ、ある程度の余裕というか、セーフの範囲を微妙に広げる為の方法だな。
なお口外するという範囲の裁定は、誓われた神が行うらしい。口にはしてませんよーという屁理屈により文章で説明するのはアリか、どんな手段でも他者に伝えた時点でアウトかは神による。まぁ余程必要に駆られない限りは言わないようにするけど。
神への誓い、と口にした事で、その誓いが成ったかは御使族である筆頭様は分かったのだろう。ふ、と緩く息を1つ吐くと、詳しい事情を説明してくれた。
「我々がこの島を聖地と呼び、街を築き、災禍や困難があっても決して離れなかった理由が、そのマナの花だ。この島には、本当に極一部だが……無垢のマナを宿したマナの花が咲く土地がある。そして、マナの花の種が、我々には必要不可欠なんだ」
「……花そのものではなく、種の方が?」
「そう。種族として、どうしても欠かすことが出来ない。欠かす訳にはいかない。……の、だが。あまりにも長い時間、この島は神との繋がりが絶えてしまっていた。そしてその間に種は尽き……無垢のマナを宿すマナの花も、咲かなくなってしまった」
種族として必要、というのがどういう状況を指すのかは分からないが、御使族の現状が相当にマズい事は理解できた。なるほど、それで私なのか。というかそれでいくと、たぶん情報の出所は「第一候補」だな。
「マナの花」は無垢のマナを宿したものしか種を残さず、育てるのは非常に困難だ。そして何とか種を得たところで、その種を育てて再び無垢のマナを宿した花を咲かせるのは、更に難易度が高い。
「すまない、末姫殿。勝手な頼みだとは分かっているが……無垢のマナを宿したマナの花、あるいはマナの花の種があれば、どうか譲っていただけないか」
「もちろんです。とはいえ即座にお譲りできる分には限りがありますが……無垢のマナを宿したものが30株ほど、種でしたら、ルフェル?」
「メェ~。100個は確保してありますメェ」
何でその難易度を知ってるかって? そりゃまぁ、主にルフィルとルフェルが頑張って、増やせるようになったからだな。そこまでどれだけ試行錯誤した事か。
「…………もしや末姫殿。その数、聖地以外での栽培方法がすでに確立されていたりするのかな……?」
「秘密です」
だって、本当に色々便利に使えるからなー。無垢のマナを宿して咲かせる為の環境を作るのにかなり設備投資が必要だったが、お金も希少素材も余裕で用意できたし。
大神の聖域が顕現した時にたくさん根っこごと採取した上で、
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