第1552話 49枚目:謁見開始

 諸々考えた結果、一緒に行ってもらうのはルフェルに決まった。一応は同性で、耐性もあり、何か仕掛けられたとしても自力で対処できて、万が一の時にはその特殊能力で連絡できるからだ。

 厳密にいえばこの世界における生粋の種族ではないのだが、フリアドこの世界でも神として認められ、信仰を集めているボックス様に強い縁がある。異世界人だからと弾かれる事は無いだろう。

 ……弾かれてしまった場合は、仕方ない。念の為エルルとサーニャも、聖地の島にこそ入らないが近くで待機してくれるとの事なので、とりあえず向かってみる事にした。あの2人のステータスなら、少々の距離は誤差だからな。


「メ~。神殿回廊を思い出しますメェ」

「あぁ、確かに。やはり全体の空気というのは似るものなんでしょうか」


 跳ね橋最後の休憩所までは皇族専用の高速馬車で移動し、そこからは迎えに来てくれた御使族側の馬車で移動だ。馬車と言いつつ車体を牽いている生き物は馬ではないが、こういう乗り物はフリアドでは総称として馬車と呼ぶ。

 護衛役という事なら、警備の仕事をしてたショーナさんも候補に挙がってたんだけどな。流石にルールがルージュ共々【人化】と言語スキル習得の特殊な試練を受けに行っているこのタイミングで島から離れると、セキュリティに不安が残っちゃうから無しになった。

 まぁ主に魅了耐性を始めとした万が一への対策は、見た目に分からない範囲で最大限に準備してきたし。悪戯好きなだけあって(?)ルフェルとルフィルも実は交渉ごとに強い。中に入ってから何らかの理由で引き離されても、たぶん大丈夫だろう。


「ルミナルーシェ・ロア・ヴェヒタードラグ殿下、ご到着!」


 なお現在の私は、ヴェールはそのままだがドレスは正装に準じた形の物を着ている。ルフェルも従者兼護衛として正式な場所に行ける格好で、もちろんヘルマちゃんのお手製かつルフィルとお揃いだ。

 皇女としての仕草や作法についてもニーアさんにもう一回確認してもらったし、出来る限りの隙は潰してきた。何の話なのかはまだ分からないが、渾身の皇女ムーブで馬車から降りて、案内の人に連れられて、聖地の島、御使族の街ウーゼルの中心にある、ひときわ大きな神殿の中を歩いて行った。

 まだ観光客というか参拝者というか、外から来ている人数がほぼゼロに近いから、街自体は静かだった。だがそれが更に静かになり、僅かな気配を感じるだけとなる程奥に進んだところで、ようやく到着したらしい。


「お招きいただき、感謝いたします。御使族筆頭様」

「よく来てくれた、末姫殿。まずはかけてほしい」


 繰り返しになるが、格としては竜皇様おとうさまと同じ相手だ。なので頭を下げても何も問題は無い。というか、下げないと問題になる。それでもあまり下げ過ぎるとダメだって事で、頑張って練習してきたんだ。

 見た目だけでいいので、優雅に、上品に。内密の話だからか、そこまで広くない部屋に、机と椅子が用意してあった。これが竜族や貴族なら私の分だけなのだが、その辺の権威は信仰に関係なし、という事なのか、ルフェルの分だろう椅子も用意してある。

 着席を進められたので、ルフェルに椅子を引いてもらって着席。ルフェル自身も席に着いたところで、半透明にも見える白い髪と、暗く彩度の低い緑色……言っては悪いが、枯れかけた葉っぱのような目の色をした男性、筆頭様は、口を開いた。


「まずは突然の招待にも関わらず、素早く応じてくれた事に感謝する。召喚者は行動が早いと聞いていたが、末姫殿も噂に違わないのだな」

「それが取り柄ですので。それに私の場合、正式な皇女として認知されてはいますが、皇女としての働きは全面的に免除されています。召喚者である、という特異性に配慮して頂いた結果ですね」

「なるほど。今代も竜族の長は聡明らしい」


 ……来るとは思わなかった、って、素直に言っていいんだぞ? 言わないだろうけど。

 さーて礼儀としてしばらくは世間話が続くだろうが、本題は何なんだろうな?

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