第1548話 49枚目:参戦各位

 私が飲んだポーションも結構な数になって来たところで、大きな動きが2つ、いや3つあった。

 まず1つ目。南北の大陸を繋いでいる大きな橋には、諸々の事情でうっかり火力がちょっとあれになってしまった迎撃兵器が設置されている。これまでは聖地の島を守る為に外側に向けられていたそれを、内側に向けて、レイドボスの本体に直接叩きこむ事に成功したらしい。……まぁ確かに高さがある以上、聖地の島に間違って叩き込まれる、って事はないんだけど。たぶん。

 2つ目は、その攻撃をレイドボスはギリギリ防御する事に成功したものの、身代わりとして防御に使用した大量の綱を喪失。初めてまともにダメージが入ったからか、ずっと私に向いていた視線が外れ、巨大な刃を迎撃兵器の方へと振るい始めた。


「それでも私への攻撃は止めないんですねぇ」

「クカカ、それはそうじゃろうなぁ。お主を落とせば逆転が待っておるんじゃ。逆なら狙わぬ訳があるまい?」

「まぁ狙いますけど。まして隠れているとか厳重に守られているとかならともかく、目の前のすぐ手の届くところにいるとか、何をおいても絶対に落としますけど」

「そういう事じゃ」


 3つ目。――土曜日の午後、という時間にも関わらず、「第二候補」が参戦しに来たのだ。マジか。本業どうした?


「割と「第三候補」のせい、いや、お陰と言っておこうかの? 常連の中に『可愛いは正義』所属のプレイヤーがおってな。のんびり茶をしばいてる暇があったらさっさと閉めて早く参戦してこいと怒鳴られてのー」

「…………私のせいではないでしょうと否定しきれないのはともかく、それは普通に営業妨害なのでは」

「じゃから、今日は臨時休業じゃ。まぁ夜まで持ちそうにないのは確認しておったから、参加できるのなら願ったりじゃよ」

「いいんですか。医者ですよね。医者の筈ですよね。それでいいんですか」

「儂の周りにもフリアドこのゲームが浸透してきておるからの。皆家で大人しく遊んでおるなら、出番は無いわい」

「何かが間違っている気がして仕方ないんですが……?」

「クカカカカ」


 好々爺、と言った見た目と喋り方のまま、のんびりと転移ポイントから姿を現した「第二候補」。だが、閉じているような細い目は、いつもよりかは開かれている。つまり……既に、戦る気満々って事だ。


「なぁに。万に一つ急患が出たところで……その前に片をつけてしまえば良い話じゃろう?」


 見た目は穏やかなまま、ゆらりと前に出る「第二候補」。流石に痺れを切らしたのか、あるいは「第二候補」を見て嫌な予感でもしたのか、巨大な刃の付いた綱が2本同時に振り下ろされた。

 流石に2本同時はエルルでも弾ききれない。のだが、エルルも横に並んで、さらに1歩前に出た「第二候補」を見て何か察したのか、私の目の前まで下がった。

 場所を譲られた形になった「第二候補」の前に、巨大な刃が重なることも無く飛んでくる。


「シィッ!」


 そして、私でも見えない速度による抜き打ちによって……2つとも、真っ二つになった。

 うっそだろ。エルルでも斬るんじゃなくて弾いてたのに。やっぱ化け物だわこの爺さん(見た目)。


「ふむ、ふむ。重さも十分、その重みを使って振っておるの。なるほど確かにそれなりに頭があるようじゃ」


 4つになった巨大な刃は、素早く前に戻ったエルルによってバラバラの方向に弾き飛ばされた。あれも綱に含まれるのか、その断面から大量のモンスターが出現するが……あ、全部斬られた。射程どうなってんだ。


「よいよい。ただの力任せなら興醒めじゃったが……戦う程に学び、工夫し、成長する。それなら、楽しめそうじゃの?」


 のんびり、とした喋り方のままだったし、前に出たのでその顔は見えなかったのだが……そう言った次の瞬間には「第二候補」の姿は掻き消え、跳ね橋に突き立てられていた綱の1本が、それなりの高さで斬り飛ばされていた。


「……こっわ」

「お嬢」

「他にどう言えと。……初めてですよ。ここまで苦戦させられておいて、その相手を哀れに思うのは」

「……」


 綱の1本が斬り飛ばされたところで他の召喚者プレイヤーも「第二候補」の参戦に気付いたらしく、慌てて退避していた。まぁそうだな。巻き込まないとは思うが、巻き込まれたくないよな。

 というか、万が一にも獲物の取り合いだと認識されただけで死が確定する。怖すぎるだろ。そりゃ逃げるわ。

 これ、サーニャ、戻って来るの、間に合うかなぁ……?

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