第1545話 49枚目:カウントスタート

 どうやら「第一候補」からもパストダウンさん経由で司令部に連絡が届いていたらしく、素早く行列は解消された。感謝を捧げて灯りの奇跡を終了し、司令部の人達が篝火台を片付ける。

 どうやら留め金に相当する部分は5ヵ所あったようで、ギリギリ透過状態にした【調律領域】の、聖地の島を中心とした最大展開が間に合った。まぁ透過状態にしても出力が高い分だけ、「縛り連ねる外法の綱核」には弾かれてしまっているんだけど。

 【王権領域】は今回の儀式向けではないという事で、半径1mまでに展開範囲を絞った。何せ力の規模が規模だ。その分だけ負荷はすごい事になるだろうし、自分の身を少しでも守らないと大した時間持たなくなるだろう。


「回復力を上げるご飯も食べましたし、リジェネポーションも飲みました。後は実際の負荷がどの程度かです、が……っ!?」


 旗槍を自分の正面に立てて両手で支え、リソースを注いでいない素の状態での最大展開を維持しながら諸々確認していると、ぐいっと力場が聖地の島の方向に引っ張られた。「第一候補」に言われていたので、引っ張られるに任せる。

 聖地の島を中心として球状に展開していたのが良かったのか、引っ張られてもあまり形は変わらなかった。レイドボスは力場を弾こうとしているようだが、海の中を通っている分は妨害できていない。

 やがて、コ――――ン……という感覚で聞く音と共に、聖地の島から、大きな波紋が発生し、


「これは、なかなか……!」


 肌で感じて分かる程に、顕現している奇跡が安定した。――と同時に、私へ凄まじい負荷がかかった。まぁ、この規模の奇跡を支えられるだけの力なんだから、通しているだけとはいえ負荷がかかって当然だろう。儀式場担当として儀式に参加しているようなものだし。

 自然回復力は強化済みだし、耐性スキルは入れられるだけメインに入れている。それだけやってもまだリソースは削れる、というより、それだけやったからこの程度で済んでいる、というべきなんだろうし。

 もちろんエルルとサーニャには連絡済みだ。流石にあの2人も、今現在この状況で、御使族からの依頼を断れないというのは分かってくれた。


「まぁ実際、中でまだ戦っている人もいますし、突入する事さえできれば、残り少ない体力を削り切るのは問題なく出来るでしょう。もちろん、水中からモンスターが一掃されたと言っても、地上での攻撃が更に激しくなっているとは思いますが」


 だが、全世界を対象とした奇跡の顕現。それが続いているという事は、少なくとも通常空間は強い神の力で満たされている。という事は、モンスターにとっては動きにくいし、存在するだけで負荷がかかる状態になっている。

 逆に、住民にとってはこれ以上ない後押しになるだろう。神が実在して願えば応えてくれるフリアド世界において、強い神の力を感じられるというのは、きっと私が思っているよりずっと大きい。

 何より。これだけ強力な奇跡が顕現している以上、世界全体が神の力場で覆われているも同然だ。強い力場の中で他の力場を展開するのは難易度が跳ね上がる。つまり、モンスター側の儀式場は、もう機能しない。


「だから、後は。全部終わるまで、この奇跡の維持に全力を注ぐのみです……!」


 ただしそれは、聖地の島における御使族の人達にも言えるだろう。先行して奇跡を願い展開した「第一候補」達外にいる御使族の人達も、先行した分だけ消耗している。私も負荷が自然回復力を上回って、回復ポーションが必要な状態だ。

 それでもたぶん、十分だ。何故なら。


「――ウーゼル島を囲む元構造物に、入口らしき場所を確認しました!! 周囲の召喚者プレイヤーは急ぎ集合、順次突入をお願い致します!」


 対レイドボス戦の大詰め。一番盛り上がるこのタイミングで、本気の出し惜しみをする召喚者プレイヤーはいないだろうから。

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