第1461話 48枚目:最初の一枚

 それにしても、バーの超過分が分からないのは不便だなーと思いながら土曜日を終えると、日付変更線前後で短いメンテナンスが入った。

 私は朝起きてからそれを知ったのだが、どうやら外部掲示板を見る限りでは、見えない壁自体にもモンスターの体力バーを表示させるアビリティを使えるようになり、そちらだと超過分も表示されるようになったらしい。

 またそのバーに対して更に【鑑定】系のアビリティを使うと、細かい数字が出てくるようになったようだ。これで具体的な残り時間や細かい変化を知る事が出来る。


「情報を隠す方向で主に努力してきて、情報を出し渋って情報不足になる事が多い運営にしては珍しいな」


 それを確認してまずそんな感想が出てしまったが、それはともかく。

 司令部は素早く(主に観測班所属の)【鑑定】系スキルを使える召喚者プレイヤーを各地に派遣して、護衛となる召喚者プレイヤーと一緒に見えない壁の状態を確認し続けてもらう事にしたらしい。

 もちろんいつでも交代できるし、そもそもお願いなので、断る事も出来る。ただし受けると最前線に支援付きで居座れるので、レベリングとしてはとても良いんだそうだ。


「まぁ、司令部の頼みを聞いてくれる人が強くなってくれるのは助かる」


 さて、昨日の午前中に聖地の島を囲む境界線の掌握率、あるいは神々の力の充填率を示すバーは満タンにしている。カウントダウンは無事進んでいるようだし、他と比べると安全な場所だから、試練品(ダンジョン産)の装備の型稽古をしている召喚者プレイヤーも多いようだ。

 ……すっかり壊れない訓練用の的扱いだな。単に素振りするより、何か相手があった方が経験値の入りがいいのは確かなんだけどさ。ダンジョン産の武器だと、こうも全力で攻撃を叩き込んで無事な的っていうのもなかなか無いだろうし。

 実際、私も見えない壁相手なら、サーニャを監督にエルルに守ってもらいつつ旗槍の打ち込み訓練をしてるんだけど。旗に属する武器だからか、バーの伸び方が、2人に任せるのと比べてもそう悪くは無かったんだよね。と、ちょっと脱線したが、いつもの時間にログインだ。


「カウントダウンは特に妨害されることも無く、こちらの神々の力をオーバーチャージする事が出来た状態になりましたか」


 そりゃそうだよなぁ。と、最新情報が書き込まれているクランメンバー専用掲示板を確認。どうやらあとちょっとでカウントダウンが終わるって事で、既に「第一候補」が救出済みの御使族の人と一緒に待機しているらしい。

 で、そこに私も皇女として参加して欲しいという内容が書き込んであったから、身支度をして移動だ。どうやらどういう風に聖地の島を覆っている境界線が解除されるか分からないので、ハイデお姉様も橋の先に移動しているらしい。

 まぁ出迎えは必要と言うか、大事な公式のファーストコンタクトだもんな。召喚者プレイヤーの方もカウントダウンが30分を切ったところで全体的に撤退し、司令部による代表者の集団と交代している。


「ところで「第一候補」」

『なんであるか、「第三候補」』

「以前少しだけ話が出来たと聞いていますが、あちらは召喚者という存在をどこまで理解できていましたか?」

『……流石にそれは分からぬであるな。この世界の誰よりも神の力と気配に親しんでいる方々であるが、それでも大神という存在は遠い。完全な異世界ともなれば、なおの事だ』

「それはそうですね」

『ただ、今までの中ではもっとも理解が早かった、という手ごたえはあったであるぞ。最終的に資料を渡す事になったが、あらましの説明だけでも、正しく理解しなければ出てこない質問があったである』


 なるほど、それは朗報だ。住民の理解と協力を得られるようになるのは、早ければ早いほどいいし。御使族の協力がスムーズに得られるのなら、思ったより早く大陸中のデバフ、もとい「モンスターの『王』」の影響力を排除できるかもしれない。もちろん主に大陸東部は別だが、それ以外の場所は。

 その為にもちゃんと皇女をやらないとな。と、気合を入れた先で、カウントダウンがゼロになった。同時に、島を包んでいた、私の視界ではそれそのものは不可視の境界線が、細かい光の粒となって空へと昇っていく。

 これでちゃんと島の姿が見える。――と、思ったのだが。


「……見え方が変わりませんね?」

『何?』

「これ、私視点の島の画像です」

『…………確かに、変わらぬであるな』


 御使族である「第一候補」には最初からちゃんと見えているようだったが、周りの召喚者プレイヤーもちょっとざわざわしているから、たぶん見えないままで変わってないんだよな。

 という事は。


「エルル」

「いいのか、お嬢」

「確認の方が先で重要です。強めにお願いします」


 「第一候補」にぼんやりした島のスクリーンショットを渡して確認してもらい、同意を得たところでエルルに声を掛ける。まぁエルルの懸念も分かるけど、たぶん大丈夫だ。

 確認の方が先で重要、というのはエルルも同意してくれたのか、するっと素早く近づき、大太刀で居合、というかなり無茶苦茶な一撃を叩き込んでくれた。観測班の誰かが素早くアビリティを使ってくれたらしく、ゲージが表示される。

 一旦は満タンになり、カウントダウンが出て、そして砕けた筈のそれは、ほぼ空っぽの状態だった。


「……「第一候補」」

『……なんであるか』

「一応聞いておきますが……内部の彼らは、何枚守りを張ったと言っていましたか?」

『こちらの説明が主であった故な……流石に、重ねた守りの数までは聞いておらぬ』


 ……つまり、聖地の島の境界線は、いくつも重ねてあって。

 それを1枚ずつ突破しないといけない、って事だ。

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