第1388話 42枚目:舞台と本体

 しばらく内部に入った状態で巨大クラゲの触手を攻撃していると、他の方向からも突入する事に成功した召喚者プレイヤーが出たようだ。飛んでくる火力が増えてスライムの殲滅スピードが上がったから。

 ちょっと楽になった、というべきところなのだが、召喚者特典大神の加護が妨害されていてウィスパーや掲示板が使えないのはやっぱり不便だな。戦闘しながらだとのんびり喋っている余裕は無いし、そもそも場所自体が広いから声が届かない。

 まぁそれでも、私がいて【王権領域】を重ねて展開している範囲では図書街のある空間と連絡が取れるので、一応司令部も内部の状況は把握しているらしい。


「問題は、本体がどこにあるかって話ですが……」

「たぶんいままでのパターンだと、このままあの巨大クラゲを叩いていても掠りダメージでしょうからね! とはいえ今の所、この場所を構築する壁や床はダメージそのものが通らないようですし!」

「とりあえず一回はあれを倒してみないといけないみたいですね。その時に変化があればいいんですけど」

「そうですね! 幸い火力としては問題なく間に合っているようですし、一度は押し切ってみましょう!」


 そういう事で、私も主にスライムを倒した後の水たまり処理、という意味で数打ちの魔法を使って参戦しつつ、巨大クラゲが触手を削り取られていくのを眺めて、もとい観察している。

 司令部もその方針という事は、やっぱり情報が足りないんだな。……流石にここに来て、目の前に見えている敵を倒すのが悪手、っていう仕掛けにはなっていない、と、思いたいし。

 ルイシャンに乗せてもらっているままだが、そのルイシャンも時々触手に雷を叩き込んでいるので参戦中だ。しかしクラゲに電気だからか、よく効いてるな。


「ヌシー」

「おや、どうしましたルウ」

「ここ、海の中みたいだヨー。だから雷ビリビリされると、離れてても結構痛いんだけド……」

「おやそれは」


 と、思っていたら、前線でスライムを叩き潰していたルウが戻って来た。物理なのに物理耐性があるスライムが叩き潰されている火力は相変わらずだし、なんなら触手も叩き千切っていた筈だが、この困り顔を見るに本当に痛いらしい。

 しかし調子がいいなと思ったら、海の中みたいと来たか。まぁ確かにクラゲは海の生き物だけど、息は普通に出来るし力場的なものでもない筈。というか、力場的な意味なら私の領域スキルの中では普通の場所になってる筈だ。


「スピンさん、それっぽい被害は出ていますか?」

「いえ、出ていたらもっと早くにお声がけしています!」

「ですよね。となると、ルウしか分からない感覚という事になりますが」

「ほんとに痛いんだヨー」

「ちなみにルウ、その「海の中みたい」というのは、私の近くに来てもそのままですか?」

「? うん。とっても楽で動きやすいネー」


 てことは、力場的なものではないって事で確定。なら何なのか、という話なのだが。


「例の闘技場の内部と同じと来ましたか。確かにうっすらそんな感じはありましたけど」

「まさしくこの空間そのものが敵だという事ですね! 司令部及び全体に通達します!」

「???」

「ルウ、教えてくれてありがとうございます。お手柄です」

「そうなノ? やっター!」


 クラゲってほとんど海水だからな。その腹の中にいるのなら、そりゃ海の中にいるような感じがするだろうさ。腹の中っていうか、傘の中と言うべきかもしれないけど。

 つまりあの巨大クラゲは闘技場の中に次々出てきたギミックと同じ、召喚者プレイヤーとその仲間を内部に誘い込む為の釣り餌って事だ。このまま内部で戦っていたら、どこかでまとめて溶かされて全滅、って事になるんだろう。

 まぁ問題は、どうやって外から叩くかって事なんだけどな。何せ闘技場と違って相手はまだ空間の隙間に潜んでいるままなんだから。……その辺も“採録にして承継”の神からのガイドがあるんだろうか?

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