第1387話 42枚目:舞台確認

 思った通り、【王権領域】の展開で、負荷は一気に増したものの触手を押しのけることが出来た。しかしスライムは領域スキルの中に入れた筈なんだけどな。もしかして触手に見えても、この空間そのものと一体化してるとか、この空間そのものがレイドボスとかいうオチなんだろうか。

 スピンさんの号令で素早く火属性魔法が叩き込まれ、一時的とはいえ触手が蒸発したのでスムーズに展開することが出来た。もちろん自然回復力が少し残る程度の所で止めておく。

 【調律領域】の方は相手の力場を透過する設定のまま低出力で展開だ。低出力って言っても、影響が無い訳じゃないからな。バフと力場防御はそこそこでも、デバフが地味に積み込まれるのは大きい筈だからね。


「案の定突入した筈との召喚者プレイヤーとは連絡が取れず、死に戻り多数! 現在司令部はまず飽和火力を叩き込んでから突入するように推奨しているそうです!」

「まぁそれが妥当でしょうね。とはいえ再生の利く核しかないという事は大したダメージにはならないという事、中に入れた私達で少しでも削って、他からの突入を支援します」

「了解です! それでは魔法斉射準備、狙いはクラゲ触手の内、他で入り口と思われるものを塞いでいるものの半ば! 千切れれば水たまりとはいかなくとも単なるスライムになる可能性は高いですからね!」


 斉射開始! の声と共に、遠くに伸びているゼリー状の透明な触手へ火属性魔法が殺到する。どうやら弱点属性はそのままらしく、蒸発するような音と共に太い触手が何本も途中で千切られた。

 流石に痛かったのか、根本側の触手が跳ねるように暴れまわる。千切れた先はというと、こちらも予想通り無数のスライムへと変わっていた。もっとも変わった直後辺りに、塞いでいたらしい場所から同じく無数の火属性魔法が叩き込まれて蒸発していたが。



 さて、と改めて見回すと、どうやらこの空間の隙間は、海中の洞窟のような場所になっているらしい。見た目はゴツゴツした岩にぐるりと覆われたドーム状の空間だ。そしてその中心に、無数の足で巨大な傘を支える、透明なゼリーで出来たクラゲがたたずんでいる。

 どういう理屈か、ぼんやりと周囲の岩が光っているから一応周りは見えなくもない。まぁ素早く明かりが打ち上げられているので、視界に関してはすぐに問題なくなるだろう。

 広さとしては図書街より一回り小さいぐらいだろうか。それでも十分大きいし、相手の領域だからか【王権領域】はその半径の3分の1程までしか展開できないが。



 【調律領域】の方は左右、恐らく北側と南側からの突入口まで届いているので、多少は影響がマシになっているだろう。地形的にはだだっ広いだけの空間だが、そこの主である巨大クラゲとその触手が障害物であり、他の突入口から来た召喚者プレイヤーとの連携を阻む壁になっている。

 そして再生力も相応にあるのか、触手を魔法の集中攻撃で千切っても、その先が変化したスライムを掃討し終える頃には半分以上復活しているという状態だ。下手な火力だといたちごっこで、いつまで経っても終わらない奴だな。

 ここでようやく本体を確認した、あるいはアビリティが通ったという扱いになったのか、巨大クラゲの上に体力バーが表示された。……のだが。


「赤地に緑色ですか……!」

「ちぃ姫さんの領域スキルで吹き飛んだことと言い、恐らく本体はこの空間そのものなのでしょう! とはいえ核あるいは心臓は別でしょうから、それを引きずり出すのが目標ですね! それにしても、こういう部分まであの白熊と同じ難易度にしなくてもいいと思うのですが!」

「それは本当に心底同意です」


 本体を確認した筈である割には、本体っぽい核が見当たらないと思ったよ。赤字に緑色、それは本体ではなく、復活可能な本体の一部に表示される体力バーの色だからな。

 という事は何とかして本体を引きずり出す必要があるんだが、その方法はこれから手探りだな。何せ相手の領域に入っているから、“採録にして承継”の神によるガイドは働いていないし。

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