第1384話 42枚目:加速開始

 退避勧告のきっちり5分後に、壊滅状態だった街が揺れ始めた。最初は地下で何か動いている感じの揺れだったのが、だんだんと地上近くまで上がってくる。それに応じて、地上に散乱していた瓦礫や本も動き始めた。

 そして爆心地だった北側の大門すぐのところと、他にも街を徹底的に壊す為に連動していたらしい場所の凹みが、真ん中から水でも湧き出すように膨らんでいった。……この時点で何か思ってたのとは違うな? とは思った。

 で。その膨らみはそのままドーム状に変わり、完全に揺れの源が地上に出てきた時点で――そのドーム状になった瓦礫と本の山を構成物とする、巨大なゴーレムが出現した時点で、詳しい事を聞こうと決めた。


「いえ。いえ、理屈は分かります。要するにトンネルを掘るドリルと同じでしょう。やってる事は逆ですけど。同じゴーレムの素材である限りはどれだけぶつけあっても構造物自体にダメージは入りませんし、ゴーレムにしてしまえば細かく操作できますから」


 だから今の今まで、どの瓦礫がどこを構成していたものかとか、どこの本がどこに収まっていたものかとかの調査をしたり、後はゴーレムの核の作成と調整をしてたんだろう。

 で、それを一気に起動させて街を修復する、というか再構築するのが、この最終工程だと、そういう事だな? たぶん。一気に作った方が建物全体の強度ムラとかも無くて後々安全なのは確かだし。

 ちら、ともう一度巨大なゴーレムを見ると、お互いぶつからないように街の中を練り歩いていた。足元がスライムみたいに広がってるから歩いているであっているのかは分からないが。巨大なゴーレムが通った後は、本棚に収められた本まで含めて街が元通りになっている。


「効率的で効果も高いのは分かりますが、それにしても、派手ですね……」


 というか、あの派手さに関しては「第四候補」の趣味だろ。




 街修復ゴーレム(後ほど「第四候補」に聞いた名前)は最終的に、南側の大門に集合して、そこを大門本体以外修復して役目を完了した。ついでにその中から「第四候補」本人が登場して、そのままその場の全体指揮を取り始めたのは、本人と司令部の計画通りなんだろう。

 さてこれで全ての大門前防衛ラインに特級戦力が配置され、素早く行動を開始した司令部と協力召喚者プレイヤーの手によって街にあったギミックが再稼働し始めた。

 それは街を守ったり周辺で動く召喚者プレイヤーにバフをかけたりするものだったが、どうやらその真価は違うところにあったようだ。


「なるほど、段階進行の為のガイドでしたか。確かにこれは防衛が必須になる訳です」

「流石は“採録にして承継”の神のお膝元、と言ったところでしょうか!」


 ここまでは手探りと偶然で進めてきたレイドボスの行動パターンの変化。それに対するガイドというか、解析が行われるようになった。例えば私が時間稼ぎをしていた巨大触手だと、根本から1m以内に対する一定以上威力の斬撃属性攻撃がヒットする事だったらしい。予想通りだな。

 残り7時間を切っているので、ここから先に温存の意味は無い。召喚者プレイヤーもほぼ全員突入済みだし、戦っている場所が場所だけに物資の補充もあまり行えないだろう。

 だから、その消耗品が持つ間に押し切り削り切ってしまう必要がある。それに現時点で継戦時間はかなり長くなっていて、疲れも溜まっているだろう。つまり。


「示されたルートを、どれだけ素早く駆け抜けられるかの勝負――要はタイムアタックです! 火力はもとより十分なんですから、ここで勝負を決めてしまいましょう!」

「エルルさんが居ませんが、皆さんご唱和ください! 我らが姫君に勝利を!」

「「「我らが姫君に勝利を!!」」」


 ……そういえば可愛い好き召喚者プレイヤーの集まりだったな、ここ。

 まぁ士気が上がるならいいか。

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