第1383話 42枚目:進行準備

 特定の空間の温度を操作する魔法を使ってみて、高温の方はあまり効果が無かったのに対し、低温の方は氷点下までその温度を操作してみると、霧が氷の粒になって落ちていく事が確認された。

 ただやっぱりあの霧もスライムの一部だったらしく、氷の粒が溶けると極小のスライムになり、そのまま本体に吸収されていた。更にその空間の温度を下げてみると、しばらくころころと氷の粒が転がっていたから、凍ったままだと吸収できないらしい。

 その結果を受けてスピンさんがどこかへ連絡を入れた結果、西側の、空間を割って出現していたスライム触手に、例の冷気の槍が叩き込まれたらしい。


『トドメを刺すには蒸発させねばならんが、ただ叩くだけなら冷気の方が効くようじゃの。通す為に必要な威力が熱気より高いとはいえ、凍っている間は触れたものを溶かす特性も働かなくなるようじゃ。しかも凍った部分は異物となるのか、勝手に切り離すようだのう』


 で、これがクランメンバー専用広域チャットに流れてきた情報である。どうやら一定レベルを超えれば凍らせても効果があるらしい。

 これがファンタジーというか魔法の不思議で、凍っているものであっても蒸発させるまでに必要な攻撃力は変わらない。だから凍らせて勝手に切り離したところを砕いて小さくすれば、必要な攻撃力も低くて済む。

 なるほど……。と思って、私はスピンさんに相談の上、極低温の空間を、地面付近で輪になっているスライムの部分まで伸ばしてみた。


「あー、凍ると異物として排除される、っていうのはこういう……」

「というかあれ、時々核が混ざってるように見えますね? すみませんがちぃ姫さん、しばらくあのままで維持をお願いして宜しいでしょうか!」

「分かりました」


 するとこう、周りの霧ごとスライムが凍る、凍った部分がこっちに転がり出てくる、スライムが元の形に戻る、凍る、というのを結構なスピードで繰り返し、ゴロゴロと結構な大きさのスライム氷が転がり出てきた。

 それらの氷はせっせと召喚者プレイヤーの人達により安全な場所に移動させられてから、こちらも集中攻撃を叩き込まれて蒸発させられている。まぁちょっとでも体積を減らす必要があるし、ビー玉サイズの核が混ざってるなら減らすべきだしな。

 こちらもいい感じのサンドバッグになっているらしく、大変景気よく魔法が連射されているようだ。自然回復力の範囲に収まってるなら大丈夫なんだけど。


「さて、残り時間はここで8時間を切った訳ですが――」


 そして変わらず巨大触手を途中で切り飛ばし、消費と回復のペースを見ながら魔力の供給を調節して、ポーションなどを節約しながら戦い続ける事1時間ほどが経過したところで。


『ぃよっし! 全体連絡、街の修復最終工程はっじめっるぞー! 街ん中にいる召喚者プレイヤーは5分以内に外に出るか中央の本神殿に退避! 逃げずに巻き込まれても文句言うなよ!? そんじゃカウントスタートだ!』


 と、スキルで拡声されたらしい「第四候補」の声が響き渡った。おっと、最終工程って事は地上まで来るって事か。でも今まで動きが無かったしどうやって直してるのかは分からないんだよな。

 まぁでもこの退避勧告は、反撃の準備を始める為の号令でもある。私がいる東側の大門前防衛ラインでも、いつでも変化に対応できるように召喚者プレイヤーの人達の動きが変わった。

 退避しろって言う事は街全体で動きがあるんだろうし、結構揺れもするんだろう。まぁ流石に修復と言いつつ防壁を崩すことは無いと思うから、私はここを動かなければ大丈夫だろうけど。


「全体連絡来ました! 街の修復における最終工程の必要時間は1時間ほどの予定との事! 皆さん、その時間に応じて動けるように心構えをよろしくお願い致します!」


 そして全体連絡というか、詳しい情報の追加がスピンさん経由で届けられた。しかし長かったな。……ようやく反撃か。

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