第1328話 42枚目:レイドボス撃破

 遠距離からの攻撃は、壁系魔法を含めて相手に吸収されるか利用されたので、大人しくバフを飛ばしまくるだけにしておいた。後は鎖の残骸がその場に放置していても消えなかったから、いつかの砂鉄集めの時と同様、魔法で磁石的な力場を作って回収しておいた。

 鎖もちょっと引っ張られかけたようだが、エルルとサーニャが切り払ってくれたので問題はない。しかしこの大量の産廃疑惑な金属くず、どうやって処理したもんか。

 ……ボックス様専用神器である「漂う何かの目印」を取り返してうちの島の神殿でお返ししてから全部捧げものにすればいいか。あれさえ取り戻せればボックス様は独立できるんだし。


「それにボックス様が独立できれば、ボックス様の事だから他の居候してる神様も一緒に連れて出てくれるだろうし。支えられる力さえちゃんとあれば」


 よし、その方向で行こう。

 私がそんな感じであまり関係ない事を考えている間に、エルルとサーニャだけでなく、私からのバフが届いた召喚者プレイヤー達も揃ってすごい勢いで鎖を切り刻み、檻に辿り着いていた。

 中には光る輪、恐らく天使の輪エンジェルハイロゥで合っているのだろう。それが割とぎっしり入っていたので、低い場所からの攻撃は避けて、出来るだけ檻の上の方へと攻撃が飛んでいる。


「まぁうっかり壊して神の力が弱まって、空間の封鎖が緩んで逃がした、とか笑えませんし有り得ますからね。せっかくここまで追い詰めたのに」


 流石に正真正銘神の眷属が装備するもの、あるいは眷属の一部だと言っても、取り返しのつかないもの分類ではあるのだから慎重に行った方がいいだろう。

 それに慎重に行った程度で、相手の詰みは揺らがない。何せ、動く鎖がほとんど無くなっている上に、体力バーは僅かに数ドットを残すだけなのだから。そしてその数ドットが、残っているあの巨大な檻なのは明白だ。

 だから、遠慮も容赦もありはしない。長期戦闘はよくある事だとは言え、疲れないという訳でもないし。


「それに何より、事と次第によっては、ここから更に大一番への応援へ行く必要がありますしね……」


 竜都の大陸における、最後のレイドボス。あの能力引継ぎ、あるいは統合は忘れられるものではない。システムメールが届いているから、今回は間違いなくそれぞれ独立してはいるんだろうけど。

 それでなくても、あっちから応援が来ないって事は、まだ解決してないって事だからな。今相手をしているこのレイドボスだって、人手はいくらあっても足りない部類だった。あっちもそうである可能性があるなら、やっぱり応援に行く態勢ぐらいは整えておくべきだろう。

 残り時間が残り時間だから、仮に応援に行ったところで何が出来るかは分からないけど。――そう思ったところで、ひときわ大きな、固い物が砕ける音が響いた。


[件名:イベントメール

本文:レイドボス「鎖し捕える柱犠の奉蛾」が討伐されました

   イベント期間内にレイドボスが討伐された為、レイドボスの特殊能力が完全に解除されます]


 同時に届くシステムメール。中ボス相当だからか、レイドボスとしては内容が無いというか短い。

 まぁでも、勝利宣言は勝利宣言だ。


「ようやく一体、あるいは、ルート1つ確保、ですね」


 わぁっ!! と、レイドボスの残骸である金属くずが広がり、檻から解放された天使の輪がそこら中にふわふわ浮いている中で、召喚者プレイヤー達の歓声が響く。それを防壁の上から見ながら、息を吐いた。

 決着がついたとたんにわらわらと小悪魔が姿を見せているが、どうやら天使の輪を回収しに来たらしい。まぁ回収はするわなぁ。と思いつつ、とりあえず終わった事の一報を入れるべく、「第一候補」へとウィスパーを飛ばす。


「…………。おや?」


 あれ、繋がらないぞ。どういう事だ。

 うーん? としばらく考えてから、エルルとサーニャを呼んで亜空間の端へ移動。念の為忙しそうな小悪魔を捕まえて“偶然にして運命”の神へ一言断りを入れておく。

 それに了承が返って来てから、防壁からも離れた場所で、元々展開していた【調律領域】の強度を可能な限り上げる。そして範囲を重ねて【王権領域】を展開。その上でウィスパーを飛ばすと。お、繋がった。


『なに、「第三候補」か!?』

『えぇ私です。こちらは状況が解決しました。どうやらだいぶ切羽詰まっているようですが、応援は』

『来てはならん!!』


 食い気味の返答に目が丸くなる。というか「第一候補」がウィスパーとはいえ大声を上げてるってどうなってんだ。その時点で絶対ヤバいだろ。


『こちらは解決どころか悪化を防いで痛み分けに持って行くしかない故、来ても被害が増えるだけである!』

『は、い?』

『良いか、来てはならんぞ! 邪神の信徒案件である! 大神の加護も阻害されている故そちらの司令部には「第三候補」から伝えてほしい!』


 ……。

 …………。



 こっちへの妨害が薄いと思ったら、本命はあっちだったか……!

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