第1329話 42枚目:北側の状況

 とりあえず、召喚者特典大神の加護が阻害されているという点については間違いない。【調律領域】と【王権領域】を重ねて展開しないとウィスパーが通じなかったんだから。

 もちろんすぐ司令部には伝えて、司令部からの号令でこちら側の召喚者プレイヤーは加速終了までこの場に留まる事になった。まぁ、暇潰しには困らない場所だしな。司令部が帳簿をつけていたコインの分配もあったし。

 しかし、そうか。邪神の信徒案件か……こっちの裏カジノみたいに「モンスターの『王』」の手先による妨害かと思ったら、そっちか……。


「それにしても、完全に攻略が不可能になるとは、相当気合を入れていたようですね」

『うむ。それも最初から念入りに行動していたようであるな。我としたことが、事態を解決するどころか最悪までの悪化を防ぎ、時間切れを待つしかないとは。情けない限りである』


 という事で、緊急会議だ。日付変更線直後のログインだな。眠いし明日の朝にツケが回ってくるが、仕方ない。せめて痛み分けの内容は知っておかないとね。情報共有は素早く行っておくべきだ。そこに付け込んでくる相手だし。


「ほんっと油断も隙もあったもんじゃないな! 知識を集める図書館ならぬ図書街だから、ヤバい情報があるのは覚悟してたんだろ?」

「まぁまずあるとは思っていたし~、お約束の1つではあるもの~。司令部も警戒していたわ~」


 なお、リアル都合で「第二候補」はいない。まぁ仕方ないな。


「警戒していてなお裏をかかれたって事ですか……。一応確認しておきますが、痛み分けというのはどういう状態なんです?」

『相手の狙い通りは阻止した、という感じであるな。順を追って話そう』


 あの最後のウィスパーについて聞いてみると、そんな答えが返ってきた。そもそも相手の狙いが分からないんだよな。被害は出ているが、あれは攻略阻止というより、被害の最大化っていう狙いの1つだろうし。



 「第一候補」がいうには、相手の狙いは図書街に封印されている、邪神用の聖書のようなものだったらしい。邪神なのに聖なる書とは、というのは一旦置いておく。あれも分類は神だし。

 もちろん通常なら厳重に封印されていて、少なくとも部外者が触れる事は絶対に出来ない状態だった。だが、図書街をホームとする“採録にして承継”の神は絶賛「モンスターの『王』」の影響を受けている。

 今回もまた「モンスターの『王』」と何らかの繋がりがありそうなゲテモノピエロからしてみれば、千載一遇にも近いチャンスだったって訳らしい。



 本気も本気だったことを示すように、その動きは準備段階から徹底していたようだ。まぁ儀式関係で「第一候補」を騙し切っていたんだから、それこそ組織の中核に近いか中核そのものなメンバーが動いていたのだろう。

 お陰で時間加速が始まり、南側の大陸における攻略も佳境になった辺りで全面的に召喚者特典大神の加護が制限されて、その邪神用の聖書の力もあって、ほぼ壊滅状態だったんだそうだ。


『……なんとか儀式に干渉し、街を生贄に捧げる事とその禁書の封印を解除する事、その双方の実行を遅延させ、時間切れまで引っ張って強制中断させた訳であるな』

「大惨事だったわね~。司令部をしてた召喚者プレイヤーや“採録にして承継”の神の高位神官さんは~、ギリギリ安全圏へ避難できたのだけど~」

「なるほど。それは確かに痛み分けですね……本当に致命的な部分だけは避けたって意味で」

「そだなー。物自体の完全開放と持ち帰りは阻止出来ても、召喚者プレイヤーだからなー! その邪神の聖書? 禁書? の中身はスクショすれば持って帰れるもんなー!」

『そういう事であるな……。禁書の写本が出回るのは避けられまい。禁書の原典自体が無いからその質は大幅に落ちるであろうが、禁書は禁書である』


 確かにそんな状態では、痛み分けっていうのが一番正しいな。そしていくら応援が追加されても安全圏を圧迫し、なんなら生贄が増えるだけだ。

 それにしても、そう来たか。……本当に、やってくれる。

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