第1327話 42枚目:最終攻勢

 どうやら本来のアライメントが中立・中庸であるだけあって、“偶然にして運命”の神は、善悪というか、悪魔要素と天使要素の両方を持っている筈だったらしいんだ。だからあの小悪魔も、不運を笑うときはあの姿だが、幸運を寿ぐときは姿が変わる筈だとの事。

 元々潜在敵だった疑惑があるくらいなので、エルルとサーニャもその天使要素がある状態の姿を全く見ない事自体は、違和感を覚えても「そんな事もあるか」と思っていたとの事。


「まさか眷属の一部が没収に近い形になってるとは思わないよ!」

「というかあれ、下手すれば神自身の何かも奪われてる可能性があるんじゃないのか……」


 神様用の神器が「景品」になってる時と同程度には頭が痛いぞ。どういう事だよ。理解した今となってはサーニャの声が引きつっていたのも、エルルが眉間を押さえていたのも理解でき過ぎるほどに出来るけども!

 流石に鎖の群れ相手に手を出しあぐねているのか、別の方向から召喚者プレイヤーの集団が攻撃を仕掛けようとしてはどばっと襲い掛かる鎖に撤退しているのを見つつ、息を1つ吐いた。


「……その、理由あるいは方法について考えている場合ではありませんね。とりあえず、あの鎖を一掃して檻を叩き壊して、この場から「モンスターの『王』」の影響を完全に排除してから問い詰め、もといじっくり聞かせてもらうとしましょう」

「…………まぁ、それもそうだな」

「相変わらず割り切るのが早いね姫さん。エルルリージェも」

「時間のロスは一番避けるべきですからね。この場所は制限時間がありますし」

「だからってさぁ……」


 だからって、と言いつつ、サーニャも構えてくれているので、だいぶ慣れてきてはいるんだよな。良い事だ。時間が無いのは本当だし。羽を端から削り落とすのに、思ったより時間がかかったからな。

 2人に魔法スキルを入れ替えつつありったけのバフをかける。事ここに至って、戦力を出し惜しみしている余裕は無い。私は近づかないが、遠慮なく魔法は叩き込むつもりだし。


「おそらくここまで同様、鎖を削れば端からモンスターが湧いてくると思います。しかしそちらは司令部の方で対応してくれるでしょうから、構わず端から削り落としてください」

「了解、お嬢」

「暴れてくるよ、姫さん」


 ゴーサインの声をかけて、残像も残さず飛び出していった2人を見送る。うーんすごい金属音。回転砥石をぶつけたってこんな音にはならないだろ。本気出すと相変わらずすごいな。

 ……しばらく様子を見たが、モンスター召喚の魔法陣が出てくる気配が無い。おや? もしかしてリソース切れか?


「ならば面倒が無くて良いというもの。魔法が吸われると邪魔になるでしょうから、そちらは様子を見ながらですが」


 それならこのまま削り切ってしまっても一向に構わないだろう。バフの残り時間を確認する為に、自分にもありったけのバフは掛けておくけど。

 残り体力1割を切っているし、明らかに絶対隠しておきたかっただろう「眷属の一部」を抱えている部分が露出してるんだ。さっきの自爆めいた全体攻撃といい、これ以上の隠し玉は無い筈だしな。むしろまだあったらクレームものだ。


「それにしても、神の眷属の一部がごっそり奪われているとか、何がどうなったらそうなるんですか」


 ……。

 …………。



 まさかあの神、口車に乗せられたとか何とかで、賭けに大負けしたんじゃないだろうな?

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