第1285話 42枚目:悪あがき

 フライリーさんを抱え、エルルに抱えられての回避行動が続いているが、お客(報酬協力のお仕事)も来なければ小悪魔の姿も見えない。これはもしかして、“偶然にして運命”の神も締め出されてるのか? 自分が用意した空間なのに。

 それならそれで笑えてくるのだが、掲示板の騒ぎを見る限りは笑ってられる場合じゃないらしい。フライリーさんと一緒に掲示板を見ながら、エルルに回避をお任せする事しばらく。


「これ、ダメな奴っぽいですね」

「そっすねー。エルルさん、ナイスっす」

「って事は神の力じゃないのか。じゃあ何だ?」

「住民も召喚者プレイヤーも関係なくランダムで強制転移させられて、裏カジノの「景品」枠の牢屋の中らしいですよ」

「あそこにはもう入りたくないっす……」


 という事だったらしい。もちろん裏カジノに残っていた検証班の人が稼ぎを投入したり、牢に入れられた本人が手持ちのコインで自分を買い取ったりする事で、一応救出は出来ているらしい。

 だが、裏カジノで売り上げが上がる=元凶の力が増すって事だ。そして今のところ、強制転移させられた誰かのスキルやレベル、種族などによって自動的に値段が付けられるらしいので。


「うっかり私が引っかかってたら、絶対交換させる気が無いな? ってぐらいの高値がついていた可能性がありますね」

「いや、それ以前に強制的に誘拐して景品にしてる時点でダメだろ。何やってんだここの神は」

「それはまぁ……神の力で作られている筈のこの空間に干渉を許し、そして神自身の干渉が弾かれているという現実を見れば……ねぇ?」

「まぁ、そういう事っすよねー」


 具体的なとこまで口に出してはないぞ。口に出してはないからセーフだ。そう。どれだけ失礼な事を考えていても。勝手に考えを読んでたら、それは読んだ側が悪いんだからな? 頑張って黙ったからな、私達は。


「そもそも、そういう倫理については今更期待値なんてありませんし。誘拐以外ではあり得ない竜族の子供を、「正当な手段」と言い張る相手の言葉に乗っかって「景品」にする神ですし」

「外から見てもあれはないっすわー……。竜都に行ったっすけど、子供に関しては皆で守ろうとする熱意がすごかったっすもん。私は全く警戒されなかったっすけど」

「証拠が無い上に一応正当な取引に則っているから“天秤にして断罪”の神も決め打ちできないだけで、迷子を見つけたらまず親を探すのが通常の道理でしょう」


 むしろいい機会だから過去の分も含めてまとめて断罪されてしまえ。というのが割と本音だ。


「というか、どういう理屈で「正当な取引」になってたんすかね? 竜都以外で竜族の人を見たことが無いんすけど」

「……昔、御使族に申し入れて、それこそ“天秤にして断罪”の神に誘拐及びその協力者として裁いてくれるように頼んだ事があるらしいんだけどな」


 素朴な疑問、という感じでフライリーさんが口に出すと、苦々しい声でエルルが答えてくれた。私はニーアさんからの皇女教育で教えてもらった。なので、絶対! 誘拐には! 気を付けてくださいね!! という厳重注意と一緒に。


「その時の言い訳供述が、「竜族ではなく、竜種の子供だと聞いていた」だったらしい。同族俺らでなくてもまず分かる違いを「分からない」と言い張った、って、聞いてる」

「……え。えー? いやでも、竜族以外に竜種っているんすか?」

「ワイバーンとかも、一応は「竜種」ですからね……」

「あぁなるほ、ど? え? でもあれはほぼ動物で、しかもこう、腕が翼になってるやつっすよね?」

「いない事はないんだ。いない事は。野生の竜っていうのも。一応」

「え? でも見分けるのは簡単なんすよね?」


 簡単に分かるんだよな。それこそ見れば分かる。何でそういう違いが出来たのかは知らないけど。


「野生の竜、大体は動物と同じ扱いをされて言葉も道具も理解しない竜種との一番の違いは、内毛の有無ですね。竜族は、鱗を透かすと毛並みがあるので」

「……透けない鱗の色の時はどうするんすか?」

「大体の場合はよく見れば、それこそ手で捕まえられる距離なら見えると思いますが……それでも分からない時は、それこそ腕あたりの鱗を抜き取ればいいんですよ。生え直す速度にも限界がありますし」


 相手が力のある神だからって事で、限りなく黒に近い証拠不十分による不起訴、って形になってたらしい。

 ……色々雑な竜族がここまでがっつり言い伝えてるって、相当なんだよな。こう言っては何だが、よくまぁ今まで無事だったもんだ。“偶然にして運命”の神なんだから、自分に降りかかる「不運」ぐらいはどうとでも退けられたのかもしれないけど。

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