第1280話 42枚目:試合の変化

 で。


「よくここまで頑張りましたね」

「すごい事っすよ! 胸張ってくださいっす!」

「体を大事にしつつこれからも頑張ってください」

「健康第一にファイトっすー!」

「「「ありがとうございますっっ!!!」」」


 にこ、と皇女スマイルで声をかけ、フライリーさんが合いの手を入れてくれて、数人が崩れ落ちつつもお礼を言った召喚者プレイヤー10人の集団が転移で帰っていくのを見送る。

 視界の端に小悪魔が『あと33人』と書かれた看板を持って飛んできたのを見て、引き攣りそうな顔に改めて気合を入れ直した。


「いやー、減りませんね……分かってましたけど」

「倍率2倍以上ってかなりキッツい戦力差の筈なんすけどね……知ってたっすけど」


 ふー、と、息を吐くついでに零すと、フライリーさんからも声が返ってきた。もにもにと自分の顔をもんでいるようだ。気持ちはとても分かる。スタミナ的には問題ないが、気分的に。

 状況? 予想通りだよ。参加者をたくさん抱える都合上、同時並行で多くの試合が行われているから、絶え間なく報酬を受け取る人が来て休憩どころじゃない。空間を良い感じにずらす技術は、報酬の受け取り待ちの方に使われているし。

 幸いなのは、集団で挑戦して報酬を勝ち取っているから、小悪魔が看板で知らせてくれる残り人数の割にはスムーズに済むって事だろうか。もっとも1組に報酬を渡している間に次の組が待機に入っているようなので、順番待ちはなくならないんだけど。


「それに今は声掛けだけで済んでますけど、これもうちょっとしたら頭を撫でる報酬を選んだ人がどっと来ますし、その次はブラッシングを選ぶ人がどっと来るんですよね……」

「予測可能回避不可能ってやつっすね。全部受け取るまで止まらない状態なのは想像余裕っすけど」


 合間合間にちらっと覗いた限り、闘技場に出てくる内だとかなり強いモンスターが、駆逐まで秒読みなんじゃないかという勢いで狩られているらしい。……一応正面戦闘なのだが、いっそモンスターが哀れになる勢いなんだってさ。

 ここまで自分の名を上げる為に頑張っていた中堅から新人を脱したばかりの召喚者プレイヤーなら苦戦は必至、倒せるかも怪しいというモンスターが、ほとんど一方的にボコられて倒されているようだ。

 もちろん、実力差はれっきとして存在している。だからこそのレート倍率2倍差なんだし。いくらベテランであっても、苦戦は免れない。……のだが。


「退く訳も無ければ臆する訳もないんですよね」

「格上が出てくるって分かってるから切り札も躊躇いなく切るし、結果として試合としてはすごく盛り上がってるみたいっすね」

「奥義クラスのアビリティを10連鎖させるとかやってるんで、普通にハイレベル戦闘のお手本として優秀みたいですし」

「いやー、趣味の力ってすげーっすわー」


 コンマ数秒どころか、フレーム単位でタイミングを合わせる必要がある筈なんだけど。それを一発で決めた上で全部最適な場所と角度で叩き込むクリティカルを乗せるとか、普通に超常者の戦い方なんだよな。

 いや。まぁ。フリアド召喚者プレイヤーは、ベテランになればなるほど、つまり公式イベントでの戦闘経験が多い程、理不尽な格上との戦闘に慣れている。これは間違いない。だっていつもギリギリだったからね。

 そして最前線にいるという事は、初見の敵と遭遇する事も多い。必要なら、その場に偶然いただけの召喚者プレイヤーと連携を取って何とかする必要もある。だから、連携力も高い。


「だからってこれは流石になんか違うんじゃないか」

「覚醒系のスキルでも集団取得しましたかね」

「ありそうっすねー。目的を定めて戦う時に補正が入る、スキル【可愛いの為!】とか」


 ちなみに、覚醒系のスキル自体は確認されている。まぁ大体は種族由来だったり、神由来だったりするんだけど。ただ、流石に趣味由来の覚醒系スキルは確認されてないな。

 されてたらそれはそれで怖いけど。

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