第1281話 42枚目:段階進行

 隙間に掲示板を見つつひたすら報酬協力を続けて、あっという間に時間が過ぎていった。たぶん累計数百人は来たんじゃないだろうか。その間ほぼ休みなしである。皆すごいな。私は回復力を鍛えているので問題は無かったが、フライリーさんは大変だっただろう。

 流石に“偶然にして運命”の神もちょっと思惑と違ったからか、良いタイミングで私だけが対応する組の人達を固めてくれたので、フライリーさんもそれなりに休憩は出来たようだった。


「……先輩住民説が再浮上してるっすね」

「まぁこれだけ活動してればそうもなりますよね」

「秒で叩き潰されてたっすけど」

「秒で」


 そんな事もあったようだがともかく。可愛い好き召喚者プレイヤーの人口が多いと言っても、流石に難易度もあるしある程度ばらけていたし、なにより2週目に突入する人はいないようだったので何とかさばききれた。

 経過時間を見ると、どうやらこの報酬協力だけで半日溶けてしまったらしい。そりゃNPC住民説も出るか。自分でも確認してみてびっくりだよ。確か報酬協力が始まった、つまり報酬が追加されたのが「お祭り」開始から半日ぐらいだったタイミングの筈なので、丸1日が経過したことになる。

 つまりこの空間異常攻略は後半に入ってるってことなんだが、進捗は、というと。


「まぁ、頑張ったかいはあったようなので、良しとします」

「いやー、可愛い好きの人達の本気を見たっすよねー」


 あれだけハイペースで強力なモンスターを倒し続ければ当然、というべきか、司令部がどうやってか把握している「モンスターの『王』」の影響度は、一気に下がったらしい。この12時間で露骨に。

 そうなれば当然裏カジノにも影響が出る。一応今も表面は取り繕っているようだが、よく見れば裏カジノ全体の空間が縮んでいたり、頭にデスとつくゲームに使われる非常に大掛かりな機材のいくつかが無くなっていたりという変化があったらしい。

 ちなみに、私とフライリーさんはずっと立ちっぱなしでこそなくなったが、今もそれなりのペースで報酬として働いている。つまり強力なモンスターは倒され続けてるって事だな。


「このペースで削り切れればいいんですが……元凶か“偶然にして運命”の神か、どっちかが何か仕掛けてきそうな気がするんですよね」

「まぁいつものパターン的にもそうっすよね。素直に終わるとは思えねーっす」

「少なくとも元凶は仕掛けてくるでしょうから、それで十分なんですけどね」

「ほんとそれっすねー」


 掲示板もそんな感じの予想が出てきているので、皆そう思ってるって事だな。その後の感想もほぼ一緒だ。これ以上いい加減にしろ案件は増えなくていい。運営も元凶も愉快犯な神もだ。

 と、思ったタイミングで司令部が更新するイベント情報まとめに新しい書き込みがあった。流石に内部時間1日が経過してなんか大きな変化があったか。


「……んー、変化と言えば変化なんでしょうけど、こうきます?」

「この街にいる神官の人達も困惑してるって書いてるっすけど、そりゃそうっすよね」


 短く纏められたそれを読み終わったところで報酬協力のお仕事。それが終わったところで、掲示板を見れないエルルが寄ってきた。


「どうした?」

「街の中に試練モドキが出現しました」

「……、は?」

「街の中に試練モドキが出現しました。それも路地の行き止まりとかゴミ箱が集められてる場所とか、まず人が近づかないだろう場所にばかり」

「何でそんなとこに……」

「それは調査中らしいっす」


 なので簡潔に伝えると、訳が分からん、という顔をされてしまった。まぁそうなるよな。しかもこの試練モドキこと野良ダンジョン、カジノで使うコインを投げつける事でしかダメージにならないんだそうだ。

 どうして野良ダンジョンが出現したのかも含めてその辺は調査中だが、一体何がどうなってそうなったんだろうな。


「……神の力が増して、異物を排除しようとする動きと、その場に留まろうとする動きが拮抗した結果、とかでしょうか」

「押し合いへし合いした結果、変なとこに力が零れた感じっすかね」

「だとしても、攻撃方法がおかしいだろ」

「一応あのコインも“偶然にして運命”の神の力によるものですからねぇ……」

「敵もトランプだったりスロットみたいだったりなんで、カジノゲームの攻略法が通用したりするかも知れないっすねぇ」

「それもそれでどうなんだ……」


 全部まとめて、この空間異常だから、って言ってしまうしかないんじゃないかな。

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