第1279話 42枚目:契約成立

 司令部にも(報酬担当、というのは伏せて)相談したが、神からの比較的真っ当な接触は歓迎するべき、という結論が出た。そりゃそうだな。性格がどうであれ今までに何をやらかしていても、こちらの世界の神ではあるんだから。

 となると問題は報酬に何を用意するかだが、3段階に分かれている、かつ、名誉系の報酬、というのが指定されている。


「名誉系……」

「とりあえず先輩ならあれっすよ。一番上はブラッシングでいいと思うっす」

「なるほど。じゃあその下は微笑みながら頭を撫でましょうか」

「どっちも甲乙つけがたいっす……けど、時間が長いのとリラックス効果があるんで、ブラッシングの方が上っすかね」

「それでは一段階目は、接触無しの全力微笑みで「よく頑張りましたね」と」

「「これからも頑張って下さい」って続けたら無限に働ける人が量産されそうっすね……」

「そもそも可愛いを報酬に選んで目指す時点で、どの報酬であっても無限に働ける人では?」

「……言われてみればそっすね」


 カバーさんが何故か『諸事情でその相談には参加できません。すみません』って話を振った瞬間にウィスパーを切ってしまったからな。エルルは可愛いの感覚がよく分からないようなので、フライリーさんと2人で相談だ。

 その結果そういう事になったので、同封されていた契約書を改めて確認。


「……これ、条件の変更ってどこに言えばいいんでしょう」

「どこか不備があったか?」

「PvE限定にしてほしいんです。血の雨が降りそうなので。主に召喚者プレイヤーの」

「あー……色んな意味で加減の無い戦いになりそうっすね……」

「流石に殺意の高すぎる戦闘はどうかと思うんですよ」

「時々すさまじく殺伐とするよな、召喚者って」


 エルル曰く、神との契約書は対話をする機能もあるのだそうで、普通のインクで契約書の「PvP」の文字の部分に二重線を重ねると、しばらくの間があって、すうっと文字自体が消えていった。どうやら了承してくれたらしい。

 そこからもう一度全体を見直し、端っこの模様とかに文章が混ざっていないかを確認。ここでさっきフライリーさんと相談して決めた報酬を書き込む。

 そこからしばらくすると、書き込んだ報酬の所に、何か矢印が書き込まれた。その根元に、文章が現れる。


「……1つ目と2つ目に「妖精さんとコンビで」って出てきたんですけど」

「3つ目には「膝に妖精さんを乗せて」って追記されたっすね……」

「向こうからの条件変更の提案だな。別に無視してもいいぞ」

「フライリーさん、どうします?」

「いやー、どうかって言われたら構わないっすけど……ちょっと報酬の威力が上がり過ぎませんかね? ぶっ倒れる人が続出する気がするっすよ」


 実際ぶっ倒れたら、それはそれで楽しみそうなんだよな……。というかむしろ、いつかCMにも使われたあの可愛いの無差別攻撃を見たいって感じの空気すら感じるんだよな……。

 ここでもうしばらく相談。空き部分に『※コンビ報酬となるのは倍率2倍以上の差がある試合に勝利した場合』と書き込んだ。実質的に報酬の種類が6個になってしまうが、流石にちょっとなぁ。

 どうやら今度は納得してくれたのか、神の部分の署名欄に読めない文字が書き込まれた。ここでもう一度確認。


「期間はこの「お祭り」に限定されてますね」

「報酬は人数に応じて固定の出来高払いっすね」

「他のイベントや「お祭り」にこの契約が適用されることはないと」

「疲れたら空間を良い感じにずらして休ませてくれると明記されてるっすね」

「報酬の受け取りは指定した代理人可。これはエルルにお願いするとして」

「元の場所に問題なく戻るところまで含めて契約完了、っす」


 指差し確認しながら声に出す。邪神についての記述が無いが、あれは元々敵なので。“偶然にして運命”の神の神官さんに司令部が確認したところ、影響は断固排除する姿勢だと教えてもらえたようだ。


「めちゃくちゃ忙しくなる予感がしますが、頑張りましょう」

「厳しい条件の筈なのに、次から次へ人が来るっていうのが想像余裕なんすよねー」

「あの時々見せる訳の分からない底力は本当に何なんだ?」


 ……趣味って、大きいよね!

 としか言いようがないので、自分の分の署名欄にフルネームを書き込む。それにフライリーさんも続いたところで、契約書が光って2枚に分かれた。その片方は、ふっと消える。

 そして1秒ほど遅れて、次の試合に移ろうとしていた実況者が新しい報酬が追加されたと告知を始めた。……まぁ、広めるなら注目度が高い方がいいだろうけど。


「さー……頑張りましょうか。“偶然にして運命”の神が可愛いの力を過小評価しているらしいので、それをひっくり返すって意味でも」

「それもそうっすねー。趣味人のパワーを体感すると良いっすよ。被害に遭うのは主に先輩と私っすけど」

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