第1278話 42枚目:盛り上がりと依頼

 闘技場で戦って賭けの対象になるというのは、まぁある意味とても分かりやすく名を売る機会だ。だからこれから最前線に踏み込んで肩を並べ、あるいは追い抜こうとしている召喚者プレイヤーが特に積極的に参加しているようだ。

 専業の実況ってなんだと聞いた時は思ったが、その後の盛り上がりを見るとやっぱり専門職ってすごいなと思わざるを得ない。解説も兼任してるから、私もうっかりすると中継に見入って手が止まるからな。上手いんだ。

 それに中継されている戦いは、複数の戦いがある中で現状一番見ごたえがある、と誰かが判断したものが選ばれている。専業の実況者か、それこそ“偶然にして運命”の神かは分からないが、たしかに手に汗握る展開が多い。そこに実況がつくのだから、かなり良質なエンターテイメントだろう。


「そして実況がついた場合は賭けを盛り上げたとして、勝者への報酬にボーナスがつくと。なるほど、それで時間が経つにつれて魅せ技が多用されるようになってるんですね」

「徹底してるっすねー。エンターテイメント方向のこだわりっぷりは一周回って感心してきたっす」


 他人を楽しませる為というより、自分が楽しい事を追及してるだけのような気もするが、まぁそれは些細な違いだ。非常に楽しい動画が配信されるという結果は一緒なんだから。

 ちょいちょい闘技場の中継に注意力を吸われながらも生産作業をしていると、こんこん、と、部屋をノックする音が聞こえた。ん? 今はエルルが護衛に戻ってきてくれたし、場所はあのホテルに戻って来たしで、動く予定はないんだけどな?

 まぁでも、エルルがいるんだから当然このノックもエルルだろう。他の人を通すとは思えないし。


「はい、どうぞ」

「お嬢に手紙が来たそうだが、心当たりあるか?」

「ありませんが、宛名はどうなってます?」

「……ここの神」

「うわ」


 なお最後の、うわ、はフライリーさんだ。私も内心では完全に同意だけど。今この、闘技場が盛り上がってるさなかでの私への接触とか。貴賓席への招待とか、そんな平和な目的じゃないだろ。だとしても丁重にお断りしたい。

 とはいえ、内容を見ないという選択肢もない。何せ相手は神だからね。なので念の為司令部に連絡を入れておき、部屋を私が空間属性の魔法でロック。生産道具も全部片づけて、しっかり警戒しながら封を切った。

 ……一番警戒していた、開封と同時に強制転移、にはならなかったようだ。一応。空間魔法でキャンセルされたとかでなければ。


「で、問題の内容は……」


 問題というか本題というか。思った以上にきっちりとした文体で綴られていたのは、名誉という形の報酬に参加してくれないかという、提案と依頼を足して2で割ったようなものだった。

 大幅に意訳すると。


『参加してない内に良さそうな召喚者がいるんだけど、彼らが求めているのはアイテムでも装備でもないっぽいかなり特殊なもので、具体的に言うと可愛いが欲しいみたいだから、彼らに人気のあなたに協力をお願いしたいの』


 となる。……まぁ、そうだな。可愛い好きの召喚者プレイヤーは、私が最前線にいるか生産作業をしているかの関係上、そのどっちかあるいは両方に属しているからな。

 ちなみに再びの大幅意訳で『出来ればその妖精さんも来てほしいなー? もちろん報酬とは別にお詫びも用意するから、それを受け取りに来ても欲しいし』となる文章もくっついていた。なるほど、見ているな?

 他の条件としては、護衛はもちろんOK、報酬として協力する内容は3段階に分かれていれば自由に決めていい、選ばれた回数と人数だけ報酬は積み上げ、その内容は中央カジノの景品相当、という感じのようだ。


「……多少は良心が戻ってきましたかね」

「単なる売り上げを見込んだ対応じゃねーっすか?」

「お嬢は特殊だから忘れがちなのかも知れないが、そもそも本来は皇女に回ってくるような依頼じゃないんだぞ?」

「神相手に不敬罪でたたっ切る訳にもいかないでしょう」


 こらエルル。目を逸らすな。同族補正で「やれるならやってるけどな」って本心は伝わってるんだぞ。

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