第1266話 42枚目:厄介ポイント

「……ここの神を引きずり出す理由が、増えましたね……」


 割と本気で殺気混じりの声が零れてしまったが、エルルからのお叱りは無かった。ははは、そうか。これは流石にアウトか。まぁアウトだよな。色んな意味で。

 なお「第一候補」もカバーさんとパストダウンさんも、早回しの方向で攻略に本腰を入れることにしたようだ。あぁそうだな。その方向でよろしくお願いしたい。


「ちなみに、私はとても嫌な予感がする推測がもう1つあります」

「おい待てお嬢まだあるのか」


 先に内容を鍵スレッドに書き込んでから、口に出す。結構ぐったりしていたエルルだが、まだあると聞いて本当に頭が痛そうだった。ははは。私も相当に頭が痛いよ。

 書き込みに対する反応は、結構間を開けてからの「十分あり得る」だった。そうだな。そうだよな。そうなるよなぁ?


「以前。エルルが入れなかった亜空間で、“偶然にして運命”の神の眷属を見かけたんですが。その時の行動が、あの神の眷属にしてはおかしかったという証言を「第一候補」から貰っていまして」

「……そういえばそんな話もあったな? そうか、その時はもうとっくに影響が出てる状態だったのか」

「はい。そしてそのおかしい行動というのがですね。……概念系の弱小に類する神との接触の機会を、潰して回る、というものだった訳ですよ」


 あのペンキをぶっかけていたのは当然許さないが、他にもやってたと聞いている。私はボックス様以外ではきちんと認識していないが、恐らくあの時私が何の気なしに接触した、その後【格納】に神の祝福ギフトをくれた神々も被害に遭っていたのだろう。

 では、何故弱小と呼ばれる神ばかりだったのか。私は当初、弱い者いじめのようだと思った。だが、ボックス様にそういう事が起こり得るなら、もしかしたら。


「――他にも数柱、何らかの概念を司る神が、ここの神の神域に居候している。そういう可能性があるな、と」

「…………」

「“偶然にして運命”の神は、本来中立で中庸。確かに敗北を笑う一面もありますが、勝利を寿ぐ一面もあると聞いています。神殿であるカジノが盛況だという事は、その力には余裕があるという事。なら、真っ当だった時に「モンスターの『王』」の影響から、弱い神々を守る為に匿う。……筋は、通るんですよね」


 ははは。と、乾いた声で力なく笑いながらそこまで言えば、エルルは左手で目から額を覆って天井を仰いでしまった。否定できないかーそっかー。

 …………チェーンクエスト風の、イベントのメイン。その最後に持ってくるだけはあるわ。盛りだくさんだなぁ厄介事がさぁ。いい加減にしろ運営……!

 ちなみに召喚者プレイヤーの頭痛ポイントとしては、北側の大陸にある図書街にいる“採録にして承継”の神にも同じ事が起こっている可能性が高いって事だな。


「とりあえず、エルル」

「なんだ」

「「第一候補」から神器の回収にストップをかけられてしまったので、良さそうな景品候補を選ぶの手伝ってください」

「ダメなのか?」

「ダメらしいですね。なんでも今この段階で弱小じゃなくなったボックス様を引き抜くと、何がどうなるか分からないとの事です」

「……なるほどそうか。ほとんどの召喚者はそれなりに信仰してるし、竜都にも広がってるからだな」


 どこにどんな風に「モンスターの『王』」の影響が出てるか分からないから、あんまり強い刺激は与えるなってさ。もどかしいが仕方ない。

 ちなみに、ボックス様への信仰は盛んだ。その一部が流れているなら、“偶然にして運命”の神は相当力を持っているだろう。なら「モンスターの『王』」の影響はとっくに脱しているのでは? と思って、実際「第一候補」に聞いてみた。

 ら。


『ややこしい話ではあるのだが、他の神から受け取った力で「モンスターの『王』」の影響を排除するのは難しいであるな。というか、それが出来ているのであれば、とっくに人間種族の神から力の受け渡しをしているであろう』


 との事で、神の力を取り戻させて影響を排除する為には、ボックス様を始めとした他の神経由ではなく、“偶然にして運命”の神に直接捧げものをする必要があるようだ。

 大変ややこしいし手間だが……急がば回れという言葉もある。これまで通り、出来る事からやっていくしかないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る