第1265話 42枚目:何故の理由

 さて、ボックス様がボックス様になった経緯をざっくり説明したところで、この「漂う何かの目印」だ。もちろん私はこの白い平皿のようなものがしっかり健在だった時の形を知っているし、本来の名前も、その効果も知っている。


「そして私の記憶では、これは創造の神一派からボックス様へ託された、いわば神用の神器だった筈です。それもこればかりはしっかりと調節された、ボックス様専用の……初めから、ボックス様以外には使えないし、使わせるつもりもない筈のものなんですよ」

「それは……確かに、ここにある事自体がおかしいな……」


 もちろん、フリアド世界に適応させる為に何かしら調整が入った可能性はある。それにそもそも、フリアド世界に来た時点で本来の役目を果たすことは絶対にないものだ。……とはいえ、おかしいのはおかしいのだが。

 鍵スレッドでも「第一候補」の同意を貰ったところで、意識して大きく息を吐き出す。そう。だってこれは、ボックス様以外の神が作った、ボックス様の為のものなのだから。

 スレッドに「第一候補」の書き込み。で、結局どんな効果があるのかって? うん。そうだな。


「……いわば、「作業台」ですね。「道具箱」の中に詰め込まれた道具を、きちんと使う為の「場所」。同時に破壊の神一派の影響を避けて「道具箱」を守る為と、世界の外に出ても世界生まれのボックス様が安定して存在する為の「座」でもあります」

「…………うん? だがお嬢、あの神は今までも散々創造の力を使ってなかったか?」

「ちゃんと使えば世界を丸ごと再生させることができる道具を使ってるんですよ。同じもののコピーや異空間の操作程度なら、道具単体で使い手がそこまで上手に使えなくても可能です」

「あー……」


 上手く使えば大きなテーブルも作れる道具でお箸を作るようなもんだ。実際にやろうとすれば上手くいかないだろうが、今回は規模だけを問題にすることとする。

 そして「第一候補」の動揺がすごいな。落ち着け。気持ちはとてもよく分かるが落ち着け。うん。だから私も動揺したんだよ最初に見つけた時。


「それにしても……何かやってるのではとか無理しているのではと思っていましたが、まさか、自分だけの「座」なしとは思いませんでした。よく神格保ててますねボックス様……」

「…………そう言われれば、そう、だな? というかちょっと待て、それじゃ今あの神はどこにいるんだ?」


 「第一候補」の動揺っぷりに同意と落ち着けの言葉を返しつつ、深々と息を吐く。それで気付いたらしく、エルルもちょっと顔を引きつらせて聞いてきた。

 それな。本当にそれな。そしてその答えは、残念ながら、というべきだろう。目の前にある。


「居候、でしょうね。そこまでの経緯は分かりませんけど、何かしらの事情なりやり取りなりがあった後に、フリアドこの世界に元からいた神の誰かの神域にいさせてもらっているんでしょう」

「その神の性質によってはかなり大変な事になる気がするんだが……!?」

「えぇ」


 なおここで「第一候補」から追加情報。神域への居候をする場合、カッコ仮、とつくものの、その神の眷属に下る必要があるんだそうだ。

 つまり、ボックス様への信仰が、一部その居候させている神へと流れている訳だな。物騒に言えばピン跳ね、平和的に言えば家賃だろうか。

 で。問題は今エルルが口に出して、「第一候補」が察した通り。その、居候先がどの神か、って事なんだが。


実際・・すでに大変な事になっています・・・・・・・・・・・・・・

「……、は?」


 痛む気がする頭を軽く押さえ、深々と息を吐き出す。もう、本当、どうしような?

 無意識で考えたくないと思ったか、エルルにしては鈍い。訳が分からない、という感じの非常に珍しい顔をしている。だから、よく見えるように、頭を押さえているのとは逆の手で、今も表示されている「漂う何かの目印」の画面を指した。

 しばらく疑問符を浮かべたまま画面へ目を戻したエルルだが、しばらくして気付いたらしい。ひく、と、本当に珍しく、盛大に顔が引きつった。


「こんなの、手に入れられる訳がないんですよね。ボックス様自身に、強く干渉できなければ」


 そう。

 ボックス様……“神秘にして福音”の神が現在、寄る辺にして居候しているのは。



 “偶然にして運命”の神だ。

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