第1242話 41枚目:騒動終息

 なお、私が魅力ステータス全開で呼びかける前に合流した召喚者プレイヤーは可愛い好きの召喚者プレイヤーであり、もっと言えば地下の部屋に居たミラちゃんお世話し隊の人達だ。

 私はブラッシングと種族特性で一気に好感度を積み込めたようだが、時間をかける事で彼ら(彼女ら)もミラちゃんからの信頼を獲得している。なので私の声掛けと同時に、お世話し隊の人達もそれぞれミラちゃんにタオルやおやつでアピールしている筈だ。

 無事ミラちゃんには届いたのか、揺らいでいた“夜天にして闇主”の神の輪郭が、今度こそ完全にブレる。そして見えたのは中心のミラちゃんと、ミラちゃんを包むような霧状の闇……あれが恐らく、“夜天にして闇主”の神の本体なのだろう。


「依り代の少女は避けて、攻撃力は乗せないように! ――斉射開始!!」


 そこへ、横からそんな指示と共に、大量の光が降り注いだ。強い風で霧が吹き払われるように、光に押されて霧状の闇が祭壇の方へと押し込まれる。そのおかげで解放されたミラちゃんは、まっすぐ私の方へと走ってきた。

 白にしか見えなかった髪の毛は綺麗に手入れされたおかげか、先ほどまでの姿と同じ白銀色になっている。こちらが本来の色だったのだろう。……神自身が姿を持たない系だったから、依り代にしていたミラちゃんの成長後の姿になってたとか、そんな感じかな。

 洪水のような光に押し流されながらも“夜天にして闇主”の神はミラちゃんへ手(?)を伸ばしていたが、それは戻ってきていたエルルとサーニャが切り払ってくれた。


「はい、頑張りましたねミラちゃん。もう大丈夫ですよ」


 そのまま、ぼすん、という感じでミラちゃんを受け止める。ぎゅう~っと抱き着いてくれているので、そのまま素早く撤退だ。よしよし、全部終わるまでのんびりしようね。




『…………平和であるなー』

「お疲れ様です、「第一候補」。何か問題が?」


 流石に集落の外に連れ出すと、それこそ“夜天にして闇主”の神の怒りが手を付けられないレベルになりそうだったので、ほどほどに離れた場所の建物をお借りし、しっかり明かりをつけた状態でミラちゃんを甘やかしていると、今日も変わらずカーリャさんに抱えられている「第一候補」が顔を出した。

 なおミラちゃんは私と一緒にお風呂に入って良い匂いの石鹸で全身を洗ってもらい、美味しい物をお腹いっぱいに食べてもらって、私がよしよししながらブラッシングしている間に寝落ちしている。守れてよかった、この寝顔。

 で、「第一候補」がこっちに来たって事は、“夜天にして闇主”の神は無事冷静さを取り戻したって事だろう。上手くいって何よりだ。


「で、何の御用ですか?」

『ようやく回復が間に合い、神も交えて事情を聴いておるのだがな。その双方から、そこの子の同席を望まれたのであるが……』

「お断りします。と、竜族の皇女このわたしが言っていた、と、お伝えください」

『躊躇いなく最強の札を切るであるなー。そう言う気はしていたであるが』


 にっこり、と笑顔で言い切ったが、「第一候補」は予想していたようだ。まぁそうだな。ミラちゃんの事を考えれば、内容が謝罪であったとしてもトラウマの元凶その1とその2が揃っている場所になんか行かせられる訳がない。

 ちなみにどういう理由で同席を望んだのか、というのは、現在もリアルタイムで更新されていくクランメンバー専用掲示板に書き込まれている。……トラウマの元凶ズ、よりにもよって、離婚に際して子供を奪い合う親のような理由でミラちゃんを呼ぼうとしてるからな。


「――直接危害を加えたのは当然、罰を受けるべき事ですが。そもそも、危害を加えてよい存在、というものを作る余地を残したのは、神の手落ちでは? とも、思う訳ですよ」

『厳しいであるな』

「ボックス様とティフォン様達を見習ってください。あの神様達は、信者に神の愛を疑われるような真似など一切していないでしょう」

『まぁ、それはそうであるな。親が子を愛し、子が親を愛する。当たり前であるが、それは行動と言葉の両方でしっかりと示さねば、伝わらぬのだから』


 そういう事だな。

 傷つけた事を嘆くのも、愛が失われる事を恐れるのも、それはもう仕方ないが……それを、ちゃんと、相手に伝えたか? って話だろう。


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