第1241話 41枚目:対処実行

 流石にれっきとした神の一柱が依り代ありきとはいえ、世界規模スタンピート以前の力を保ったまま顕現している、という事で、今回ばかりは「第一候補」に出動がかかったらしい。まぁ外からだと出来る事にも限界があるよな。

 で、「第一候補」の観測及び推測によれば、やはり現在の“夜天にして闇主”の神は“歪”めるの影響を受けている状態であり、解決の為には依り代から引き剥がす事が必須であるらしい。

 そこから司令部の持っている手札や現在の状況から実際に出来る引き剥がし方法を模索した結果、だな。


『まず通した光を太陽の光に変えるレンズを用いて、強力な太陽光を浴びせて隙を作る。そこで依り代を揺さぶって乖離を大きくし、宿光石の特性が付いた光属性魔法で集中砲火して完全に引き剝がす。定石で正当な手順であるな』

「むしろそれ以外ではどうにもならないともいうんですけど」

『流石に相手が相手であるからなー……』


 なお、もちろん最後の引き剥がしの部分に攻撃力はつけない。傷つけたい訳ではないのだ。むしろその逆だからな。引き剥がしが上手くいった後は、「第一候補」がメインとなって、いわゆる荒魂を鎮める儀式を行うらしい。

 さて問題は、手順の真ん中、依り代を揺さぶる……つまりミラちゃんへのアクションだ。この場合は当然ながら精神を揺さぶるという事であり、憑依状態となっている“夜天にして闇主”の神の考えや感情から遠ざかる方向の方がいい。

 と、ここでちょっと「第一候補」に確認である。


「ところで「第一候補」。神様側の感情や考えは子を守る感情が暴走しているで大体合ってると思うのですが、ミラちゃんって今どんな状態なのか分かりますか?」

『その子の話は伝聞でしか聞いておらぬから、推測にはなるが……まぁ、安堵や落ち着きからは程遠いであろう。意識もあるであろうし、誰かに傷つけられる恐怖、誰かを傷つける罪悪感。そういう感情が強い状態であろうな』

「……なるほど。つまり、大体最初に発見した時と似たような感じだと思っていい訳ですね」

『恐らくは、であるが。少なくとも、現状が好意的なものではなかろう』


 という事らしいので、司令部経由でちょっと相談。ある意味一番不確定というか難易度の高い「依り代を揺さぶる」の手順において、とある動きを提案した。

 もちろん他にも保険はあるだろうけどね。フリアドには存在するのだ。それそのものは禁じ手に数えられていても、直接精神に働きかける魔法的手段が。もちろん、私を含めた複数の召喚者プレイヤーが参加する動きで上手くいけば何も問題はないのだが。

 エルルとサーニャは“夜天にして闇主”の神の足止めを続けてくれているので、その合間を縫って私が遠くから手を振る事で、同族補正を使って作戦を伝達。いやー、本当に便利だな。


「それはもう全力で反対してたのも伝わるんですけどね。これは後で絶対怒られるやつです」

『まぁ、護衛対象を後方に下げ続ける為にあれほど繊細な足止めをしておるのだ。にもかかわらず最前線に出ると聞けば、当然反対するであろうよ』


 なお神の足止めだが、あの2人が全力でやったら集落ごと吹っ飛んでしまうので、繊細で合っている。『勇者』であるエルルもそうだが、今回はサーニャもだな。

 何せ光属性ドラゴンの中でも希少種である「昼」の竜だ。うっかり魔力を武器に込めすぎれば、それだけで神様であっても依り代のミラちゃんを含めて致命傷になりかねない。相性って怖い(逆方向)って事だな。

 そんな足止めが上手くいっている間に、司令部による保険として、予備戦力である召喚者プレイヤーが宿光石の灯りを用意して広場の周囲を囲むように配置される。顕現している以上どれほど効くかは分からないが、影を作らない光は多少なりと障害になる筈だからね。


『決まればよいが』

「決めるんですよ」


 儀式の準備を整えて呟く「第一候補」に、自分の左手の小指につけていた指輪を抜き取りながら返す。指輪はインベントリに入れて、代わりにあるものを取り出して右手に持った。

 その状態で広場近くに待機していた召喚者プレイヤーの集団へ合流する。そのタイミングで、ガッ!! と、強い光が広場を照らした。通した光を太陽光に変えるレンズは割と普及していたらしく、数を集めて一気に照らすとこうなるようだ。


〈ぁぁあああああっ!!?〉


 不意打ちの日光は流石に効いたらしく、顔を覆って動きを止める“夜天にして闇主”の神。もちろんタイミングを合わせてエルルとサーニャは下がっている。

 そして私と、一緒にいた召喚者プレイヤー達も、そのタイミングで広場へと踏み込んだ。お、すごい。神様の輪郭が揺れてる。

 さて依り代……ミラちゃんの精神を揺さぶる手順だが、ここでやる事はシンプルだ。つまり。


「ミラちゃん――おいで!」


 あの地下の部屋の時と同じく。右手にブラッシング用のブラシを持って、両手を広げ、制御用の指輪を外した魅力ステータスを使う、好感度のゴリ押しである。

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