第1194話 41枚目:眷属の話

 言い分けがややこしいので東洋龍と称するが、その人……人? がうっかり召喚者プレイヤーを捕食するのを阻止して、大急ぎで『巡礼者の集い』の人達が別の儀式をやる事で、カッサカサ&ぼんやりしている状態が治ったらしい。

 ようやく我を取り戻した状態になって『巡礼者の集い』の人達と司令部の人達から、左腕が麻痺している事を含めた諸々の説明(もちろん掴まれていた召喚者プレイヤーは逃げている)を受けた。

 で、その結果。


「誠に申し訳ない…………っ!!」


 恐らく本来というか、元々の姿なのだろう。フリアド平均身長よりやや大柄な男性の姿になって水から上がってくると、その場で土下座してしまった。

 よく見れば腕や首筋に平らな鱗が残ってるその人曰く、元は普通の徒人族だったらしい。“湧水にして脈穴”の神への信心が認められて眷属に召し上げられ、現在は半神なんだそうだ。なのであの東洋龍の姿もこの人の姿も、どっちも本当の姿だとの事。

 で、眷属という事は当然、“湧水にして脈穴”の神の影響を受ける訳で。神様が空間を閉じた時点で自らを封印し、目覚めの時が来るのを待っていたそうだ。


「それが……っ! 目覚めに竜皇に連なる血を頂いただけではなく、神の気配を感じ無意識に掴んでしまった方を食らおうとするなど……っ!」


 ……いやぁ、うん。なんというか、まともな人、もとい、眷属さんで、良かったよね。なんか今にも切腹しそうだけど。

 とりあえず司令部(検証班)の人達と『巡礼者の集い』の人達を中心にしばらく説得を続け、命より情報が欲しい(意訳)という事をどうにか誤解なく伝えて、そこからようやく話し合いだ。

 まぁ封印状態だった時のことが分からないのは仕方ないとして、現在の湖の状況を改めて確認してもらう。どうやら司令部は水をかけると増える砂を少しだけ保管していたようで、そちらも見せていたらしい。


「…………神の気配、力、影響、その残滓も、「無い」……?」


 そして判明したのは、この「モンスターの『王』」の影響を受けている事がまず間違いない土と砂は、“湧水にして脈穴”の神自身には、掠ってすらいない、という事だった。

 話が聞こえているのは私がステータスの暴力であり、十分に耳が良いからだ。同じく視力も良いので、やや困惑が混ざった眷属さんの言葉と態度に嘘が無い、というのも見て取れる。

 だが、明らかにこの土と砂は“湧水にして脈穴”の神に影響している。その筈だ。だってそうでもなければこの空間内部を埋め尽くし、湖を水の代わりに埋めている訳がない。


「それにもし神以外に影響を受けた、あるいは影響している源があるなら、それこそモンスターの数体ぐらいは見つかっていてもおかしくない筈ですが……」


 もちろん、そんな報告は一切聞いていない。実際私も、モンスターに遭遇した事はない。もちろんあの砂と土は別だが、あれだって「モンスターの『王』」の影響を取り除けば水という本来の姿に戻った。つまり、形を変えられた動物や住民と同じだ。

 完全なモンスター、あるいは「モンスターの『王』」サイドの存在は、今の今まで一切確認されていない。そういう事になる。少なくとも、地上には。そしておそらくは、地中にも。

 何故なら、“導岩にして風守”の神がいるからだ。地中に問題の源があるのなら、いくら鈍いと言っても、流石にあの地属性の神は気付くだろう。それでなくても私が【調律領域】を広げて範囲に引っかかるまでは、地面の下に潜っていたんだし。


「……あの神様が影響を受けているとかならともかく、それは捧げものをして儀式をして、それでも変化が無い以上はありえない筈ですし。となると残るは、水中ぐらいしか残っていない、つまり、“湧水にして脈穴”の神ぐらいしか該当する相手はいない筈ですよね……?」


 どういう事だ、というのが正直なところだな。探索できる場所は大体探索し尽くしている筈だし、そろそろ制限時間的にも厳しい。だからそろそろ詰めに入らないといけないのに、ここで実質振出しに戻るとかちょっと待て、だ。

 いや、他に探索できる場所が無いって意味だと、振出しに戻っている訳じゃない。協力者というか、味方になる人も増えたんだし、進んではいるん、だけども。

 ……まぁ、湖跡地を掘り返す、っていう、やる事というか行動自体は変わらないから、問題はないのか。たぶん。

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