第1193話 41枚目:封印解除

 有能な司令部は、空間異常内部にそれっぽい情報が無い、という事も把握している。だから素早く御使族に相談してくれたらしく、『巡礼者の集い』に所属している召喚者プレイヤーの人が数名来てくれた。この人達も随分あちこち引っ張りだこで忙しい筈なんだよな。ありがたい事だ。

 どうやら“湧水にして脈穴”の神の関係者というのは間違っていなかったらしく、とりあえずだが移動させた場所も合っていたらしい。色々な祭具を持ち込んだ彼らはテキパキと何かの儀式の準備を整えていた。

 で、ここで私に話が振られる。タイミング的に大体内容の分かるそれは何だったかというと、まぁ、捧げものだな。


「竜族の、しかも皇族ですからね。儀式に出力が必要というなら仕方ありません」

「……後が怖いですね。情報を隠蔽してしまいたくなる程に」

「他に方法が無かったというのを強調して、捧げものの内容が分かってからの神様の態度次第ですねぇ……」


 という訳で、儀式用のナイフで小さいカップに私の血を注ぎ入れた。へー、儀式用にちゃんと加工した刃物なら「吸血」特性が無くても血が採れるのか。それは初めて知ったな。

 もちろん【調律領域】もOFFにして、種族特性が干渉しない程度の距離を開けて儀式を見守る。恐らく“湧水にして脈穴”の神に対応した祝詞が唱えられ、祭具らしい鈴が鳴らされ、私の血を含む捧げものが、ぶわっと光の粒へと変わった。

 通常の捧げものだとこのまま空中にとけて消えてしまうのだが、今回は巨大な白い水晶の卵に見える封印へと吸い込まれていった。その上で「腕」に捕まえられている召喚者プレイヤーがちょっと所在無げだが、仕方ないね。


「……正解が分かるというのはありがたい事ですね」

「そうですね」


 光の粒が最後の1つまで吸い込まれたタイミングで、パキッ、という音が響いた。すぐにそれは連続し、大きくなり、やがて明確にその巨大な結晶に罅が入る。本当の卵みたいだな。

 罅はすぐその結晶を埋め尽くし、その端から、上に突き出て召喚者プレイヤーを掴んでいるのと同じような「腕」が飛び出した。左腕っぽい、と思ったのは間違いではなかったらしく、まずは右腕が手前の下に飛び出す。

 続いて向かって右側の上下に同じような「腕」……あるいは「脚」が殻を割るように飛び出したのだが、ここでその卵みたいな結晶が、私達から見て手前に、ぐるんと回ったのだ。


「あっ」

「うわやぶっ!?」


 当然、推定「左腕」に掴まれていた召喚者プレイヤーはそのまま、溜められていた水へと叩きつけられる。流石に死にはしないだろうが、あれは痛そうだ。

 というか息が出来ないのは流石にヤバいのでは……? と思っている間に、更に卵のような結晶は砕けていく。最後に、バキィッ!! と大きな音を伴って完全に現れた姿は、というと。


「えーとあーっと、ここで東洋龍が出てくるのは予想外ですがその前にあの人は大丈夫ですか?」

「あぁいえ、流石に水中から持ち上げられ――いやあれは、止めてきます!」

「お願いします!」


 何というか、卵のような結晶から出てきて半分以上水につかっているのに「腕」と同様カラッカラに乾いた感じの、竜族わたしとは違うタイプの、元は綺麗な青緑の鱗をしていたのだろう竜もとい龍だった。

 うん。まぁ。それはいい。それはいいんだけど、左腕に掴まれたままの召喚者プレイヤーの安否が気になるというか、その龍が召喚者プレイヤーを掴んだまま左腕を持ち上げて口を開けてるって事は、あれ、食べようとしてるよね? って話で。

 儀式をしていた『巡礼者の集い』の人達もぎょっとしてから慌ててるのも確認したし、素早く踏み切って「複頭竜の剣」を抜いたカバーさんは何も間違ってないと思う。大丈夫、あの剣確か、強力なだけの麻痺毒も充填してあった筈だから。


「まぁ寝ぼけてる感じというか自分が何を掴んでいるのか正確に把握してない感じですし、もしそうじゃなくて必要な事で怒られた場合はきちんとお詫びするという事で……」


 ほれぼれするような踏切と跳躍から、しっかり左腕の根元を狙って剣を一突きし、流れるようにその場を離れるカバーさんを見ながら、お詫びって髪とか鱗で大丈夫かなぁ……と思ったりした。

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