第1191話 41枚目:効率上昇

 なおここまでもかなり有効活用してきているが、【調律領域】で私が雑に魔力を配ると、結構な人数が無限魔力状態になる。魔力の自然回復力が鍛えられていい事だ。

 で、その状態で“導岩にして風守”の神に祝福をかけてもらった石の棒を配ってもらい、どうやら変換後の「変化を拒絶する」特性を持った魔力がシャワーのように放出されるらしい石の棒を、一斉に使うとどうなるかって言うと。


「まぁ効率が跳ね上がりますね。……時々自分の足元まで水に戻して変えてしまって、溺れかける人が出てますけど」


 私はもちろん空気の足場を設置して、その上に乗っている。他の召喚者プレイヤーも大体は箒に乗ったりした状態で石の棒を使っているのだが、中にはうっかりする人もいるようだ。

 湖との境界線に変換後の魔力を当てても境目がくっきりするだけなので、やはり同じに見えても何か違うらしいのも確定だ。それにしても、水の精霊さんが大忙しだな。土は砂と違って、水を別の何かに変える力はないみたいだけど。

 その分だけ何というか、強度的な物が上がってるって事なんだろうか。掘れば掘るほど出力が必要になるっていうのは。とりあえず今のところは間に合っているようだが、これ、どこまで掘り進めればいいんだろうな?


「まさか本気でこの広さを、地下水脈まで掘りぬけって事では……ない、と、思うんですけど」


 いくら数の力が必要とはいえ、流石にそれはなぁ……? と、若干内心で首を傾げつつも、土で埋まった湖を掘り進めていた訳だ。

 もちろん私の【調律領域】の展開範囲には限界があるので、この空間の入り口から見て左側が私を中心とした石の棒を使う召喚者プレイヤーで担当している。対して入り口から見て右側は「第四候補」が使い魔による物理で土を掘り出している筈だ。

 では真ん中はというと、こちらは手前と奥の二手に分かれて祝福された水が流し込まれている。どれが一番有効か、あるいは何かの刺激になるか分からないからね。とりあえず今のところ、進捗は大体同じぐらいのようだ。


「強いて言うなら、真ん中が残ってしまってるのが問題でしょうか。その内周りから削る事になると思いますが」


 マジででっかいんだよ、この湖。跡地になっているとはいえ。向こう岸が見えないって程じゃないけど……いや、竜族わたし基準だから分かんないな。

 まぁでも特に変化もないし、他に出来そうなことも無いし、何かありそうな場所もないし、精霊さんが素直に手伝ってくれるって事は悪い事じゃないんだろうし、掘り進めるしかないんだけど。

 流石神の祝福と言うべきか、再生系回復魔法より石の棒を使った方が圧倒的に効率がいい。だからただひたすら石の棒を、ホースで水を撒くように左右に振りながら一定の範囲をうろうろしている。周りの人の事も考えて、大体左側で動いている人達の真ん中あたりで。


「ぎゃー!?」


 だから壁際、というか、湖の本来の端からはちょっと距離があった訳だ。移動方法は空気の足場を渡り歩く形だったし、ちょうど真ん中の方へ向かうタイミングだったから、若干反応が遅れたんだよね。


「何だ!?」

「ホラーだ!!」

「はぁ!?」

「とりあえず司令部に連絡!」

「けんしょーはーん!」


 だからそんな声を聞きつつ振り返った時点では、もう既にその現場? にはたくさんの召喚者プレイヤーが集まっていた。具体的には人垣が出来ててその向こうが見えない。え、何。ホラーとか聞こえたけど何。

 石の棒は魔力を注ぐのを止めると壊れてしまうが、その量を絞るだけなら問題ない。だから魔力を周りにほとんど影響しない程度に抑えつつ空気の足場を渡って近寄った。騒いでいても私が来たことに数人が気付いて、道を開けてくれる。

 その動きに軽くお礼を言って、何が起こったのか、と、騒ぎの中心を見てみると。


「……腕が生えるのは初めてですね。というかこれ、何の種族の腕ですか?」

「ちぃ姫タスケテ!」

「司令部と検証班にまず相談です」

「冷静!」


 壁際、と言っていいのか、湖と地面との境界線近くにある、たぶん元は水の土から、ずぼっ! という感じで、腕が生えてきていた。そしてその腕が、その近くを通ったらしい召喚者プレイヤーの足を掴んでいる。ものすごい力で掴まれているらしく、かなり痛そうだ。

 ただ、その腕がな。よく分からないんだ。筋張ってカサカサになってるのはまぁこの状況だから水分を取られたのかなとも思うが、爪が長くて鱗が生えてるんだよな。

 でもフリアドにおける竜族の鱗は葉っぱみたいな筋が入っていて真ん中が盛り上がっている、厚みのある鱗だ。そして鱗の下には毛が生えている。これは竜人族の人も一緒だった。でもこの腕、鱗が平らで小さくて、その下が普通に皮膚っぽいんだよな。


「鱗はありますけど、少なくとも竜族じゃないみたいですし。人魚族の方々は腕に鱗はありませんし」

「新種族?」

「とりあえず力が強いのは確か」

「痛い?」

「めっちゃ痛い。ってか握り潰されそう」


 ……そういえば、“導岩にして風守”の神が何か云ってたな。もう住民はいない筈。いたとしても神の側に片足以上突っ込んだ奴だけ、みたいな。

 それか?

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