第1190話 41枚目:進捗着々

 残念ながら、私がログアウトするまでに砂を片付けきる事は出来なかった。とはいえ残っているのはちょっとした山になる程度の量だったので、すぐに片づけられるだろう。

 なので私はログアウトして夜のルーチンという名の日常を過ごす。残りログイン時間も3時間をちょっと切るぐらいなので、調節はばっちりだ。まぁ主に司令部の人達のお陰なんだけど。

 外部掲示板に空間異常内部の進捗は出ない筈なので、予定時間までの間にざっくり情報が出ていない事を確認してからログインだ。


「で、状況というか、あれからの進捗は、と……」


 とりあえず外を見た感じ、街の中心にある湖跡地? は結構広い穴が掘られているようだった。そこで召喚者プレイヤーがわらわらと動いていたし、水を凍らせて運ぶ動きもある。……もしかしてあの土、周りと変わらないように見えたけど、砂と一緒で水に変えられるのか?

 けどまぁ緊急事態的な慌ただしい感じはしないので、情報がまとめられた掲示板を確認する。ログアウト前がこの辺りだったから、ここから先だな。


「あぁ、やっぱりあれ、砂と一緒だったんですね。……水に戻す変える為に必要な回復魔法の強度が段違いとか書いてますけど」


 しかも深くなる程にその必要強度、あるいは出力が上がっていくらしく、それであぁいう広い穴の形になっているようだ。元の深さからすると随分浅いなと思ったら、そういう事だったらしい。

 なおあの土について“導岩にして風守”の神に聞いてみると、やはり「分からん」との事だった。ただしあの土を再生系の回復魔法で戻した変えた水を見せると、こちらは“湧水にして脈穴”の神のもので間違いないらしい。

 後はちょっとした備考、という感じで、湖に近づくにつれて精霊の気配が減っていき、湖の辺りでは全く精霊がいない状態になっているようだ。ただし他の場所から連れてきた精霊は普通に活動できるとの事。


「……まぁ、今までにもありましたけど。精霊さんがどこかに引き籠っていたり捕まっていたりするパターンは」


 私の言葉に反応してか、ひょこ、と水の精霊さんが顔を出した。【○○精霊魔法】はその名の通り、精霊さんがいないと発動できないからな。だから【○○精霊魔法】を使う召喚者プレイヤーや住民は普通、精霊が宿る特殊素材の小瓶や宝石を持ち歩いている。

 私の種族特性、「精霊を身に宿す事が出来る」は自分の身体でそれが出来るのだから、やっぱりちょっとぶっ壊れてるんだよなぁ。何せ精霊が全くいない場所でも【○○精霊魔法】が使えるんだから。それも習得している契約している属性は全部。


「とりあえず、出力が必要なら私の出番ですね」


 さてそれはそれとして、特級戦力のお仕事の時間だ。私抜きでまだ何とか土を水に変えられてるって事は、私が領域スキルを展開してバフをかければもっと行けるって事だろうし。何より、私自身の回復魔法は出力が大きいからね。……本職には負けるだろうけど。


「流石に、神の奇跡ほどの威力はどうしたって出ませんし……出たら逆に問題でしょうし」


 という訳で最前線に合流。もしここにも何かあった場合に備えて【調律領域】は地上と土を掘り出した後の部分だけ、つまり上方向だけの展開となった。まぁそうだね。何かあったとして、こっちは好意的な存在の可能性は低いから。

 なのでせっせと再生系の回復魔法を連打する。水に戻った変わった分は精霊さんが水の玉という形で持ち上げてくれて、他の召喚者プレイヤーによって凍らされている。今までと同じパターンだな。

 もちろん普通に物理で掘る事も可能であり、実際そちらは「第四候補」が担当しているが、あちらはあちらでかなり硬くて掘りにくいらしい。なんというか、順当に難易度が上がってきた感じだろうか。


「しかしこれ、地下水脈に達するまで掘ろうと思うと大変なのでは?」

「その前に何かが見つかると思いたいところですね」


 大変っていうか無理な気がする。と、思いながら呟いたのだが、いつの間にか近くに来ていたカバーさんから返事があった。いや本当にいつの間に。

 でも直接来たって事はなんか用事かな、と思って振り返ると、カバーさんは何か、長さ1mぐらいの石の棒のようなものを何本も抱えていた。重そうに見えるんだけど、いつものにこにこ顔のままだな。


「ところでカバーさん、その抱えている石の棒は何ですか?」

「実はこちら“導岩にして風守”の神にご協力頂きまして、魔力を通すとその性質を変化させる加工をした上で、その「変わらない」という部分を祝福として与えて頂いたものとなります」

「……性質を変える加工の上に、「変わらない」性質をくっつけた、んですか?」


 それは何というか、意味が無いのでは? とちょっと思ったのだが、そうではなかったらしい。はい。と、にこにこ微笑みながらカバーさんが続けることには。


「人の手による加工と神の祝福では、当然ながら祝福の方が優先されます。ですがその組み合わせによっては変異が起こる事があり、今回の場合は「変わらない」、すなわち「変化を拒絶する」という性質が魔力に付与される、という変異が発生しました」

「…………。それってすごい事なのでは?」

「はい。ただし耐久度に若干の難がありまして。一度魔力を込めてから止めると、その場で壊れてしまうようです」


 えーと。

 つまり、魔力を通すだけで「モンスターの『王』」の影響を排除できる代わりに、一回しか使えないって事だな。すごい便利アイテムだが、その一回をどれだけ長くできるかによって効果が大きく変わると。

 あー、それで私の所に持ってきたんだな。私ならまず魔力切れを起こさないし、つまりはこの石の棒を最大限に活用できるって事だから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る