第1192話 41枚目:謎の存在

 どうやら無事司令部と検証班に連絡が行ったらしく、素早くカバーさんを含む元『本の虫』メンバーが来てくれた。なおその間にその「腕」をつついてみたりした召喚者プレイヤーもいたのだが、特にこれと言って反応はない。

 他の場所でも一旦湖跡地の掘り返しが中断され、念の為湖跡地から大半の召喚者プレイヤーが退避してから、その「腕」の根元が掘り返され始めた。まぁ生き物……にしか見えない相手だから、とても慎重に、だが。

 あからさまに干乾びた姿だが、だからこそ水を与えると何が起こるか分からない。って事で、石の棒も無しだ。作業を止めたから結構な数の石の棒が壊れてしまったが、まぁこれはまた作ればいい。


「で、掘り返してみましたが、これは……」


 問題はその、たぶん水だった土の下から出てきた「腕」の持ち主でな……。

 どうやらこの土もしくは「モンスターの『王』」の影響から身を守る為か、白い水晶でできた特大の卵みたいなものの中に居たらしいんだ。それを内側から破って「腕」が生えている。もとい、突き出ている。

 まだ掴まれている召喚者プレイヤーには悪いが、その状態のまま慎重に湖跡地から元々の地上に持って上がって、丁寧に土を払い落とした。そこから“湧水にして脈穴”の神の神殿まで運んで、湖から水を引き込んでいたのだろうちょっとしたプールみたいな場所に置く。

 そして、掴まれている召喚者プレイヤーも、少しでも力が緩めばすぐ逃げ出す準備をしたところで、凍らせていた水の一部をその卵のような結晶にぶっかけつつ溜めてみたんだ。


「……まさかの無反応とは思いませんでしたね。どうしましょうか」

「流石にあの場所から見つかっておいて無関係、もしくは別の神の関係だとは思えませんが……もしかすると、“湧水にして脈穴”の神の力が込められた水でなければいけないのかも知れません」


 掴まれている召喚者プレイヤー曰く、力が緩む様子も、腕が水気を取り戻す様子もないそうだ。どうしようね?

 ちなみに私も【調律領域】を展開してその特大の卵みたいなものを効果範囲に収めてみたが、こちらも反応が無い。んー、あれだな。たぶんもしかしなくてもあの白い水晶みたいなの、あれが封印なり遮断なりの効果があって、それで遮られてるんだろう。ハイデ様の時もそんな感じだったし。

 しかし試しに、と、掴まれている召喚者プレイヤーがその「腕」の近くを叩いてみた結果、掴む力が強くなったらしい。すごい悲鳴を上げていた。


「足を切り落として再生するのは最終手段として……そもそも、何で掴んでるんですかね、あれは」

「封印を自ら破って腕を出した理由も分かりませんからね。どうやらまだ封印状態という判定なのか、【鑑定】系スキルも通りませんし」


 通常空間で挑んでいて良かったな。これは流石に御使族の人達に相談案件だろう。というか、召喚者プレイヤーだけでは知識が足りなさすぎる。もちろん探せばどこかに情報があるのかもしれないが……フリアドの運営だからなぁ。

 と、思っている間に再び上がる悲鳴。どうした、と思ったら、掴まれている召喚者プレイヤーの人だったらしい。周りを見ると、どうやら再生系の回復魔法を「腕」に使ってみた召喚者プレイヤーがいたようだ。え、それでもダメなの?

 しかし再生系の回復魔法……「モンスターの『王』」の影響を癒す魔法がダメなのか。それでいくと、うっかり石の棒をあの結晶? の近くで使わなくて良かったな。どこまで「腕」の力が強くなるのかは分からないが、握り潰されててもおかしくない。


「いえ。召喚者プレイヤーとしては、いっそ瞬間的に握り潰されてた方が良かった可能性もありますけど」

「……微妙なところですね。少なくとも足に着けている装備はダメになるでしょうし、不意打ちとはいえ十分な痛みもあるでしょうから。確かに、一瞬で済んでここまで長引くことも無かっただろうとは思いますが」


 まぁ、現状こうなってしまっているから、もうちょっと我慢してもらうしかないんだけど。

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