第1172話 41枚目:精霊の反応
とはいえ、本来はもっと大人数、それこそ100人単位で取り掛かるべきイベントだ。魔法能力では間違いなくトップクラスの3人が魔力無限状態だったとしても、まぁちょっと無理がある。
しかし成果が無いという訳ではなく、少なくとも私が【調律領域】を展開するとかかっていた負荷はだいぶマシになった。時間加速中だからスタミナが持つ限りは起きていられるし、つまり【調律領域】は維持し続けられる。
だから時間がかかるのは問題ないのだ。とりあえず
「……割と本気で「第一候補」に相談したいわけですが、あちらも忙しいでしょうしねぇ……」
ただ、まぁ。どうやら住民側、もっと言えば、神様側には多少問題があったらしい。これを問題と呼んでいいのかは分からないが。私はそこそこ困っているので問題でいいだろうか。
今私は祭壇のある部屋を離れ、本殿の端にある部屋を借りてそこで待機している。【調律領域】の展開範囲は普段の鍛錬のお陰で割と自由に動かせるので、水面を抑え込むのは問題ない。
……のだが。
そこそこ時間が経って、たぶんそれなりに水面が下がった、じゃない、敵性反応のある水の量が減ってきた辺りで、水の精霊さんがひょこっと顔を出した。これはいい事だ。
ただ何故かきょろきょろと周囲を見回して、私から離れて向かった先は部屋の壁だった。どうやら直接洞窟に接しているらしいそこはゴツゴツとした岩肌がそのまま、という感じだったのだが、そこをじーっと見る事しばらく。おもむろに私のところに戻ってきて魔力をねだってきた。
特に問題は無いから魔力を渡したら、それでコップ一杯分ぐらいの水の玉を作って、再び壁の前へ移動。……何故かその水の玉を、繰り返し壁に叩きつけ始めたのだ。こう、べちべちと。
何をしてるんだ……? と思いながらとりあえずその謎行動を動画で撮影しているが、さっぱり理由が分からない。話しかけて聞けばいいんだろうが、めっちゃ真剣にやってるから邪魔しにくいんだよな。なんか怒ってるっぽい気配を感じるし。
ただ、カバーさんはさっき仮眠に行ったところだからなー。いつかのステージに分かれていた島と同じく、テントを設置してその中に入れば、主観では一瞬で設定した時間が流れる仕様だ。つまり、一時的に連絡がつかない。
一応その岩壁に向かって【鑑定☆☆】を試してみたが、こちらは「“岩洞にして底道”の洞窟」という表示が出るだけだった。入る時の入り口や、道中の壁に【鑑定☆☆】した時と一緒だ。
「先輩、おはようございますっす~……って、どうしたんすか、精霊さん。もしかして復活したっすか?」
「おはようございます、フライリーさん。いえ、私に付いてきてくれた子なんですけど、理由が分からないんですよね……何か怒ってるみたいなのは分かるんですけど」
「あー……確かに、何か怒ってる気がするっすね」
なおただ待機しているというのも時間がもったいないので、例によってお札の作成をしている。今回の事を考えると、お香に入れるお札はいくらあっても足りないからね。しかも今回の場合、私が作ったお札でないと威力不足だ。
べちべちべちと水の玉を岩壁に叩きつけていた精霊さんだが、私とフライリーさんが揃うと何か変化があったのか、ぶすーっとした顔でこっちに戻ってきた。ん? 何?
「…………神様が仲間を抱え込んでいるから、返してって言ってる、ですか?」
「そう聞こえるっすねぇ……。でもって、神様は一向に返事をしてくれないとも言ってるっすよね?」
「同じくそうらしいですね。……“岩洞にして底道”の神が、水の精霊を、抱え込んでいる?」
「今回の場合、あの塔と一緒で普段地下水脈にいる精霊さんの事っすよね?」
「他に居ないでしょうし、それで合ってると思いますが……」
ぷりぷりしながら精霊さんは、あの謎の壁べちべち行動を説明してくれたが……神が精霊を抱え込む。そして返してくれない。って、どういう状況だ、それ。
もちろんこの空間異常が起こった理由として、守る為に、というなら分からなくもないが、それなら私についてきてくれた精霊さんがここまでぷんすこ、もとい怒ってないよなぁ。
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