第1173話 41枚目:ばらばらのピース

 時間加速中、全ての召喚者プレイヤーは空間異常の中という別空間にしか出入りできない。それはつまり、通常空間の住民へ連絡を取る手段が無いって事だ。

 だから私とフライリーさんだけだと精霊さんの言い分を聞く事は出来ても、それが何を意味するのか読み解く為の知識が足りない。結局言葉通りに受け取って、分かるところだけ追加で質問しておくことにした。

 べちべちと水の玉で叩いていた壁の向こうに神様がいるのかとか、抱え込まれているという精霊さん達は元気なのかとか。後は、周りの水で変わったところはあるかとか。


「……まぁ、この洞窟自体がご神体、というのはうっすら分かってましたけど」


 一通り質問をしたところでフライリーさんは水の浄化(?)に向かったので、精霊さんは再び岩壁に水の玉をべちべちしている。だんだん連続猫パンチに見えてきたな。

 神様の居場所については、「この岩壁が神様」。抱え込まれている精霊さん達については「あんまり元気じゃない」。周りの水は「知らない水」。うん。よく分からん。

 まぁ「岩壁が神様」については、洞窟自体がご神体=神様って扱いが確定した、って事でいいだろう。隣の部屋に移動させてもらっても、そこの岩壁でべちべちを再開していたし。「元気じゃない」については精霊さんが抗議(?)している事から良くない状態なのは確定的に明らか。となると「知らない水」だが。


「精霊由来じゃない、すなわち、地下水脈じゃない。もっと言えば、この世界由来ではない……」


 敵性反応を見せて襲い掛かってくるから、最低でも「モンスターの『王』」の影響を受けたものだと思っていたが、やっぱりそれで合っていたようだ。他にはないだろって話なんだろうけど。

 しかしそうなると、「抱え込まれている精霊」が作り出した水という訳でもない、という事になる。そして“岩洞にして底道”に、水に関する権能はない。だから消去法だと「モンスターの『王』」由来という事になるんだが、それならもうちょっとマイナスの感情がある気がするんだよな。嫌だとか近づきたくないとか。

 だから最初の、敵性反応ばかりの状態だと姿を見せなかったのかもしれないが……そうなると「モンスターの『王』」由来のものに再生系の魔法をかけたら、普通の水になった、という事になる。


「それは、おかしいですね?」


 うん。なんかどっか間違ってるか、情報もしくは賢さが足りないな、これ。とりあえずクランメンバー専用掲示板の、この空間異常用スレッドに書き込んでおくか。

 そのついでにざっとそのスレッドを確認すると、どうやら地上の探索でも何ヵ所か怪しそうなポイントが見つかったらしく、それらは大体この洞窟に繋がる岩という形をしているそうだ。住民の人達に聞き込みをすると、あんな場所に岩は無かった筈、という証言が得られたとの事。

 まぁ南側の大陸で、影響をする「モンスターの『王』」は“歪”めるだからな。洞窟の形が変わる、というのは、まぁ、十分あり得るだろう。という事はつまり、その形が変わっている部分は「モンスターの『王』」の影響が強いという事だ。


「……確かに、町の中で石壁を作る訳にもいきませんか」


 今は大人しいようだが、ここから更に状況が変わると、モンスターが出現するポイントになる可能性がある。だからマリー達を中心に、その場所を囲むように柵を作っているそうだ。

 マリー達には緊急時用として、壁系魔法のお札を渡している。にもかかわらず追加が欲しいというメールが来たから何故だと思ったら、これに使うんだな。たぶん。

 まだ地底湖の敵性反応は半分も消えていないが、司令部が情報を纏めているスレッドによると、それなりにクリア出来た空間異常も増えてきた。ただそこで浮いた人員は、残り時間が少ない場所へ優先的に向かわされる為、ここに応援が来るのはもうちょっと先だろう。


「さて、応援が来るのが早いか、地底湖から敵性反応が消えるのが早いか、ですね」


 なんか比較対象がおかしい気もするが、まぁ、権力と領域スキルの出力で難所をゴリ押したのは私だしな。司令部からも許可をもらっているし、早く攻略できるんならそれに越したことはないっていうのは間違ってないから。うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る