第1171話 41枚目:巻き進行

 一応本殿に入る前に神官の人に確認を取ったが、お香を捧げる事自体は問題ないようだ。ただ閉鎖空間なのであまり大量には焚かないでほしいと言われて、香炉の大きさを確認されたけど。

 私が両手に乗せられるサイズなので問題なしと言われ、イベントというか「モンスターの『王』」の影響特攻のお香をセットして、祈りと共に捧げる。閉じた目の向こうで何か光った気がするので、たぶん受け取ってもらえた筈だ。

 これで多少なりと治療になってくれればいいんだけど。と思いながら顔を上げて、祈りの姿勢を解いて立ち上がり、



 ぐらり、と、足元が大きく揺れた。



「なっ、なんだっ!?」

「に、逃げろっ! 水が、水から逃げろぉ!!」

「逃げろってそんな、どこに!?」


 私はすぐに姿勢を立て直したが、周囲はパニックだ。しかも妙な単語が挟まっていると思って耳を澄ませると、ものすごい水の音がする。それも濁流のような、どこからか大量の水が押し寄せてくる音だ。


「っ――! “岩洞にして底道”の神よ、御身の領域で異なる神の力を振るう事、非常時につきどうかお許しください!」


 祭壇に向かって咄嗟にそう声を張り、入り口の方を振り返ると同時に柏手を1つ。外から見たこの神殿とその周りにあった地底湖の大きさを思い浮かべ、その水面に上から蓋をするようなイメージで、【調律領域】を展開した。

 当然のように強い抵抗がかかるが、そこはステータスの暴力で押し通す。無理をした反動か、あるいは神からの罰か、ばちん、と何かの力が弾けるような感じで髪が数本ちぎれてしまったが、この程度なら安いものだ。

 どうにか領域スキルで地底湖の水面を覆えたのか、パニックになっていた騒ぎが、困惑と共に収まっていくのが聞こえた。もっとも抵抗はまだだいぶ強いので、油断はできないが。


「カバーさん、地上への変化はありましたか?」

「一部、水を飲んだことによると思われる体調不良の方が暴れ出したようですが、即座に鎮圧及び治療できたようです。先ほどの揺れは確認されたようですが、それ以外は特に何も起こっていないようです」

「それは何より。……しかしどうしましょうか。これ、たぶんちょっとでも緩めたら、また暴れ出すと思うんですけど」

「そうですね。神殿側と話し合いになるでしょう。お任せ下さい」


 いやー、頼りになるわー。




 で。


「そもそも地下水脈との繋がりが断たれ、かつ精霊もいないのに存在するこの大量の水。その「水源」とは何だったのか。これが問題であり、最も難しいポイントだったようですね」

「と、言いますと」

「端的に言いますと、本来“岩洞にして底道”の神に、水に関する権能はありません。だから水の精霊と共に祀られるという形を取っていたようです」

「…………水が十分ある、という事自体が既におかしいという事でしたか」

「そうですね。とはいえ地底湖の調査は「水自体が敵性反応を見せて襲ってくる」以上は少々無理がありますが」


 っていう事だったらしい。そりゃそんな水を飲んだら調子も悪くなるわ。クリア条件が「水源の浄化」だったからてっきり水源「に」何かされてるのかと思ったら、水源「が」問題だったとか分かるかって話だよ。

 ちなみにフライリーさんはこの本殿まで来てくれて、私が抑え込んでいる地底湖の水に、「モンスターの『王』」の影響を排除する再生系の魔法をかけてくれている。ソフィーさん達とマリー達は地上で情報収集の継続兼待機だ。

 何でフライリーさんが魔法をかけてるかっていうと、そうする事で地底湖の水の内、敵性反応を見せる部分が減ったらしい。カバーさんの推測では、そうやって地底湖の水を普通に戻した上で、水中を探索する事になるのではないか、との事だ。


「水中は無理でも、安全になった水を汲み上げて地底湖の水面を下げる事は可能です。安全な水が増えれば住民の皆さんの安全も確保できますし、水を調べる事で「水源」についての情報が分かるかもしれません」

「……問題は、手が足りないって事ですかね」

「そうですね。この町の人口を支えるだけではなく、周辺の地域において井戸に異常が発生した等の緊急事態の際、救援を行えるほどの水量ですから」


 それを言ったら、この少人数で対処するような問題じゃないんだけどな。

 まぁフライリーさんは無限回復状態になってるし、同じく無限回復状態のカバーさんとソフィーナさんが参戦したらもうちょっとペースは上げられるだろう。3人なら私も魔力を支えられるし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る