第1167話 41枚目:イベント開始

 少なくとも私はやる気十分になったところでイベントだ。どうやら形式としてはあの、「モンスターの『王』」を閉じ込める為の空間づくりだった納品形式に近いようだ。

 あの陽炎の柱のような空間異常を発見したらその座標が表示されて、その下に調査で分かった情報が追加されていく形になるらしい。調査だけならこの形にする必要はないので、たぶん時間加速の時はここから空間異常のどれかを選んで突入できるとか、そういう事じゃないだろうか。

 既に日付変更線の直後から動いている召喚者プレイヤー達(主に検証班だろう)によってそこそこ情報が載っているので、クランメンバー専用掲示板と合わせて確認していく。


「……あー……。大分特殊な形ですが、お香を使うというか、香りが捧げものに相当するんですね。そして捧げた時の反応から、中に封じられている神の属性を推測する、と……」


 例えば風属性を帯びたお香で反応が良ければ、風に関する神って事になる。そこからモンスターの素材を混ぜて反応が更に良くなれば戦う権能のある神だし、逆に反応が悪くなれば戦いから遠い権能の神って事だ。

 つまりほぼ総当たりって事だな。とりあえず今は残っていた地図や住民の証言から、大体どんな神かという情報が手に入っているところを重点的に調べているようだ。楽なとこから埋めていこうって訳だな。

 まだ情報が集まり切った場所……中にいるだろう神の具体的な名前まで判明した場所は無いらしい。そこまで行ったら何か変化があるだろう、というのが検証班と司令部の推測だそうだ。


「まぁ、間違ってはいないでしょうね。出てくる情報も断片ですが、近づけていく事は出来るようですし」


 なので現在、お香の調合の手が足りないんだそうだ。つまり生産作業の時間だな。まぁ実質総当たりなのだし、空間異常ごとにその辺のカウントは変わるようだから、いくらあっても足りないのは分かるんだけど。




 事前に可能な限り消耗品を作っておいたのもあり、一応ポーションなんかの在庫には余裕がある。だからクランメンバー専用掲示板にずらっと並べられた素材と配合のお香をひたすら作り続ける時間だ。

 お香を作るには生産スキルが必要だが、使うのは誰でも出来るからね。またこちらもこちらで生産スキルのレベルが高い程反応が顕著になるらしいので、頑張るしかないだろう。

 月が替わると同時にイベントが始まったので、最初の土曜日に入ったのは3日目だ。……なるほど、最初の時間加速までの期間が短いから、半分答えが分かってる部分から取り掛かったのか。


「司令部の判断は正解でしたね。……神の名前が分かったところでようやく必要な情報は「半分」とか、相変わらずギミックの難易度が高い」


 神の名前が分かってから出てきた情報? 当然、空間異常「内部」の状況や、その解決に必要な情報だ。ここで神の防御の為の力の「モンスターの『王』」の侵略の為の力が混ざってあんな事になっているのが確定したよ。大体そんな事じゃないかとは思ってたけど。

 今回相手にするべき「モンスターの『王』」は2体。“歪”めると“溶”かすだ。その両方が精神への干渉が可能であり、神であっても全くの無影響とはいかなかったらしい。

 まぁその力を借りている御使族に影響が出てるんだから、そりゃ無理があるだろう。そもそも神に精神干渉しようっていう判断が普通は出てこない。れっきとした上位存在なんだから、その辺の耐性も高いだろうし。


「そして状況と解決方法が分かったところで出てきたのが、時間制限、と」


 現在の状態では動く様子を見せないらしいが、最短24時間から最長72時間。時間制限の最低ラインが1度のログイン時間では足りないこと、一度入ったら時間切れか解決でしか出れない旨の警告があったこと、最長が時間加速と同じであることから、時間加速中に突入するもので間違いないだろう。

 ただし。


「……まぁ、問題が無い訳ではないんですけど」


 今現在、つまり通常の状態でも、突入する事自体は可能、というのが、問題と言えば問題だ。最も時間の短い24時間のものに有志が突入してみたところ、中に入る事と、召喚者特典大神の加護でのやりとりは出来たらしい。

 もちろん外には出れない上、内部での攻略も時間制限相応に時間のかかるものだったらしく、だいぶ騒動になったようだ。それでも一か所に司令部(というか検証班)が集中できるし、やりとりも出来る上で応援も送り込めるから、解決する事自体は出来たらしい。

 解決すると空間異常は解消され、その場に神様がいる神殿を含めた集落が出現したとの事。こちらは何もしてない内からモンスターの群れが襲撃してきたので、そこにかかっていた司令部がそのまま防衛戦の指揮を取っているそうだ。


「解決が出来る、のは、良いとして。神が影響を受けている、そこに干渉できる、ので、あれば」


 もちろん司令部も警戒しているだろう。元『本の虫』組が最初の最初から本気で対策していたのは、どこかしらでそうなるという情報を手に入れていたか、推測ぐらいはしていたからかもしれない。

 神が影響を受けていて、そこに干渉できる。なら。……邪神の信徒が、暗躍を狙いそうだな、って。

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