第1144話 39枚目:再動の狼煙

 なお、そこからさほどせずソフィーナさんはログインしてきてくれたのだが、ざっくりと状況を聞いて、第一声。


「それなら手分けして、何人かホットケーキミックスを作る担当に回ってもらおうかしら。あの魔法の粉があれば、何千人分でもどんと来いよ」


 ソフィーナさんのちょっと前にログインしていたフライリーさんと、ソフィーナさんと一緒にログインしてきたソフィーネさんを含めた召喚者プレイヤー組は、ぽん、と手を打ったが、住民組は何のことだか分かっていない。まぁそれはそうか。無いもんな、フリアドに。既製品のホットケーキミックス。

 それはベーキングパウダーの存在が広まっていない(スキルで発酵の時間が短縮できる為、天然酵母で十分)からなのだが、今回はイベントダンジョンに落ちていた箱を拾うとベーキングパウダーがごっそり手に入ったので、これを使う事にするようだ。

 ちなみにソフィーナさん曰く、ベーキングパウダーも作ろうと思えば作れるらしい。天然そのまま素材が主流、というか、ほぼそれしかないフリアド世界ではちょっと難しいようだが。


「魔法は便利ですけど、良し悪しですねぇ」

「間違いなく便利だから、こういうときに上手く両立できる方法を広めたいわね」


 それに魔力の作用がどうなるかが分からないから、ちょっとこの忙しい時にぶっつけ本番は無理があるし。流石にダンジョン産なら大丈夫だろうって事で、ホットケーキミックスから作る事にしたようだ。

 直接食べるものではなく素材を作っているからか、こちらは【料理】ではなく【錬金】を始めとした調薬系のスキルが働くらしく、私とルディルがホットケーキミックス担当になった。

 そこからはひたすら生産作業である。ははは、単純作業な上に材料を用意してもらい、私もルディルと自分にバフをかけているとはいえ、他の料理できる組全員の消費速度に合わせるのは結構大変だなぁ!


「ところでふと思ったのですが、作ったお菓子は「お菓子籠」に直接入れておいて、「お菓子籠」ごと交換する形で持って行ってもらった方がいいのでは?」

「そう言われればそうね。所有者制限がある訳でもないし」


 ついでに、どうやら情報を一通りまとめて顔を出してくれたカバーさん曰く、巨大な雲……に見える「何か」の塊は探索済みの大陸上空を一定ルートで巡回しているらしいので、その塊に直接お菓子を山ほど入れた「お菓子籠」を投げ込んでやろうかと思ったが、それは自制した。

 とりあえず治安回復が最優先だからね。それに容量無制限とはいえ、本体……というのが適切かどうかは分からないが、「お菓子籠」1つで足りるような数ではないだろう。今でも全然追いついてないっていうのに。

 イベントアイテム目当てとはいえ、高難易度ダンジョンをざっくり一掃した直後で良かったな。ここでスタンピートが起こったら完全にパニックだぞ。流石に色々追いつかない。


「いえ。現在まだ情報が錯綜していますが、どうやらダンジョンの発生件数が人里近辺を中心に上昇しつつあるようです。召喚者プレイヤーは行方不明者の捜索に力を割いている為正確さには欠けていますが、恐らく行方不明者が多発している原因が刺激になっているかと思われます」


 規制対策に具体的な単語は出てこなかったが、つまりイベントダンジョンが多発するのに引きずられて、通常ダンジョンも出現数が上がってるって事だな?

 ちょっと待てや運営。どこがミニイベントだ。完全に全世界的に危機になってるじゃないか! いつも通りと言えばいつも通りだが、難易度と頻度を考えろ!


「……それ、本当に自然発生か?」


 が。手は動かしながら疑問を呈したのはエルルだ。眉間にしわが寄っている。うん? どういう事?


「前にもあっただろ、試練もどきに刺激があって変異したっていうのが。確かあれも、途中から人為的に刺激が追加されてなかったか?」

「! 至急確認します!」


 しゅっと部屋を出ていくカバーさん。うん。うん? 試練もどき、野良試練こと野良ダンジョンに刺激があって変異。途中から人為的に刺激が追加。

 えーっと……あぁ、あれか。封印系アイテムが配られて、野良ダンジョンの核を封印しないとダンジョンが消えない奴。〇ッパーはこうしている今も大活躍している。違和感だけど。

 あれだな。確かに外的刺激があった。わざと難易度を上げられていたり、スタンピートが予定より早くかつ誰かに都合よく発生したり。


「あんっのゲテモノピエロは、本当に……!」

「お嬢、口調」

「そうも言いたくなります。相も変わらず反省や自制とは無縁のようで!」


 まぁ無縁だろうけどな! 本当に世界を混乱させる機を逃すことはしない、実に良い決断力をしている事だ!


「……そういや今更っすけど、何でゲテモノピエロなんすか、先輩」

「唯一直接目撃した時、ゲテモノピエロとしか言いようのない恰好をしていたからですね」

「えっ!? 先輩『バッドエンド』と直接相対した事があるんすか!?」

「その一回きりですけどね。やっぱり無理をしてでも直接殴っておくんでした」

「だから止めろって言ってるだろ」


 あれ、そういえば目撃情報共有してなかったか。カバーさんには伝えた覚えがあるから、元『本の虫』組の人達は知ってる筈なんだけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る