第1135話 39枚目:ラッシュチャンス

 かなり順調にいっていた沿岸の砦戦だが、複数のブロック(モンスター)を同時に解体し、ほぼ本体だけになったところで同時撃破すると、ちょっと面白い事になった。

 召喚者プレイヤーの大半が避難したところで、沿岸部ギリギリから「第四候補」が使い魔に指示を出して自爆特攻させたのだが、ここまでなら何が起こったか分からない程度に素早く間を詰めていた砦の列が、しばらく動きを見せなかったのだ。

 大量の疑問符を浮かべながら召喚者プレイヤー達が見守る先で、解体している時の倍ぐらいの速度で左右の砦が迫ってきたのだが、その様子もおかしい。若干揺れているというかずれているというか、具体的には、手探りしている感じだったのだ。


『なぁフッダー、これもしかして間が一気に空いたから、どことどこを繋げればいいか困ってんじゃね? ここで叩いたらずーっと手探り状態のままおろおろしてるんじゃね?』

『可能性はありますね。司令部に提言します』


 という会話がクランメンバー専用広域チャットであったが、その後召喚者プレイヤー達に号令がかかったので、司令部はその案を了承したらしい。破壊行動もとい解体が再開した。

 壁が迫る時の早さの倍、とはいっても、元々そんなに早い訳ではない。むしろ間で複数のブロック(モンスター)にかかっていた人数が左右に集中したせいで、火力という名の作業効率が上がっている。


「絶賛フルボッコタイムですね。しかしどれだけ必死になっているのか。領域スキルが完全に通っているんですけど」

『飛んでくる槍の数も減ってるな。単純に距離が空いたからかもしれないが』


 まぁそりゃ必死にもなるだろうけどさ。防衛ラインが完全に抜かれてるんだから、そりゃーまぁ頑張って直そうとするだろうけどさ?


「さてエルル」

『なんだ、お嬢』

「もうすっかりメイン戦場はあそこですし、領域スキルが通りましたし、土地の除染って領域スキルでも多少効果があるみたいなんですよ」

『……まぁそうだが、まさかお嬢』

「司令部から連絡です。私も上陸して儀式場を形成、領域スキルを更に拡張して展開しつつ、エルルを前線に寄こしてください、と」

『俺はお嬢の護衛なんだが?』

「ここで確実に防衛ラインに穴を開けておく方が大事ですね」


 とはいえ、相手が慌ててるんなら畳みかけるべきだ。という事で、カバーさん経由での司令部の指示を伝える。砦が並んでいた場所に空いている大きな空間の中央に何か作られてるが、あれは『巡礼者の集い』の人達か。て事は儀式場だな。

 もちろんあんまりやりすぎて、ヤケクソでちょっとずれてもいいから防衛ラインを塞ごうとしたり、防衛ラインを放棄して迎撃に移ったりされたらそれはそれで厄介だ。が、どっちにしろ私は領域スキルの中心だし、更にブーストをかけてもらえるなら領域スキルの押し合いで、多少の時間稼ぎぐらいは出来るだろう。

 というか、その時間稼ぎメインで中心にいてくれって言われてる気もするんだよな。もちろん領域スキルを展開するのが私という都合上、行動の起点に居てくれた方が助かるんだろうけど。


「素早く大陸内部へ突入して、内側から相手の力を削ぐ事が出来れば、残った砦の対処は楽になると思うんですよね。領域スキル無しでも、それぞれが神から頂いた対策アイテムでどうにかなるくらいに」

『……またそういう都合のいい理屈を……』

「単なる事実です。それに領域スキルを維持するだけなんですから、前線でも私が戦う機会はありませんよ?」

『むしろ戦うつもりがある方が問題だこの降って湧いた系お嬢!』


 だから戦闘はエルルと皆にお任せするって言ってるじゃん。私は素直に領域スキルを維持しつつ、自然回復と耐性スキルのレベル上げに集中してるから。分類的には後ろで大人しくしてる方だと思うんだけど。

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