第1127話 39枚目:行動開始

 ただ幸いに、と言うべきか、その精神干渉は御使族のごく一部にとどまっている、というのがブライアンさんと「第一候補」の見立てだった。


『竜族程ではないが、我らも状態異常耐性はそれなりに高いであるからな』

「治療そのものは出来ておりましたし、ほとんどの同胞はほぼ外との接触がありませぬので、大丈夫でしょう」


 という事らしい。なるほど。明らかに後方にいる感じの特性を持つブライアンさんは、治療という事で影響を受けた人と特に接する回数が多かったから、その分ある種の回りが早かった、という事だな。

 で、一通り話を聞いたところで行動開始である。具体的には、あの不協和音の中を突破して、モンスターも行動不能になっている間に可能な限り長い城みたいな砦をブロック毎に破壊して突破口を開きつつ、要救助者を救助するのだ。

 ブライアンさんの事は秘密にする方向でいくらしいので、竜族のお城で待機する事になる。だから表に出るのは通常、と言ったらあれだが、御使族以外の物質系種族の人達だ。


「というか、だから「第二候補」が気付いたのでは?」

『ふむ。……そうか、そう言えば振るっている刃は生きていたであるな。使徒生まれである上、共に成長する分を含めると……通りで強靭である筈だ』

「自分の鱗を使っていないので本来のものではないとはいえ、一応作り方的には竜合金製の剣を、普通に振るって耐久値を削り切り壊してましたからね……魔力を流し込み過ぎての負荷とか一切なしで」

『「第二候補」の性格からして、得物の手入れを怠るとは思えぬしな……逆に、そんな無茶苦茶な攻撃力で振り回されてよく大丈夫であるな』

「使徒生まれですから、特に頑丈さに重きを置かれたのでは?」

『なるほど、道理である』


 そんな会話もあったが、私の動きとしてはたいして変わらない。元の姿と正気を取り戻した物質系種族の人達と一緒に突入する召喚者プレイヤー達を、全力でブーストした領域スキルで支援する役だ。

 ただし前回と違い、司令部の予測に領域スキル相当の能力、その範囲に変化が現れる事がある。だからその反動があるかも知れないので、いつも以上に気を付けてほしいとカバーさん経由で注意されていた。

 まぁそりゃそうだ。だってあの均一展開のタネは精神に干渉されて物理的に形を変えられた、物質系種族の人達(御使族含む)だったんだから。それを引っこ抜きにかかるんだから、まぁ変化はあるだろう。


「というか、変化が無い方が問題なんですよね」

「そうだな。何か別の仕掛けがあるって事だろうし」


 御使族というビッグネームが出てきた以上、更なるギミックはない……と思いたいんだけどな。ようやく上陸できるかどうかっていう序盤も序盤なんだし。




 月曜日の夜、かつ事前アナウンスが無かった状態だが、日曜日の夜に何かが見つかったという話は大雑把に知られている。確定情報でこそなかったものの、少なくとも大規模に動けるようになったら何らかの試行をするだろう、と、多くの召喚者プレイヤーは読んでいたらしい。

 まぁつまり、存外多くの召喚者プレイヤーが参戦した為に、突入組が選抜式になったんだよね。ほら、突入に必要というか、協力してもらえる救出済み物質系種族の人達は人数が限られてるから。


「まさかそこで大幅に時間を食うとは思いませんでしたけど」

『ほんとにな。争奪戦じゃないだけ平和だったんだろうが』


 何故かそこで、その物質系種族の人達に対するアピールタイムが始まったんだよね。装備の扱いとか住民の人達との交流関係とかの。……平和的なのはいいんだけど、なんでだ。

 争う理由そのものが少ない種族特性だからか、争いじゃないアピール合戦は大うけしてたけども。というか、エルルもそのアピールタイムで出てきた野球用具一式にちょっと心惹かれてたじゃないか。そんなに野球やりたいの? たぶん特注でないと無理だと思うんだけど。

 そんな訳で開始予定時間を大幅に割り込んでしまったのだが、元々人数がいない前提の、規模の小さい作戦だったから一応問題なくいきそうだ。


「とりあえず突破口というか、地上で戦える場所が整えられて行っているのはいいんですが……」


 なお核となっているモンスターもこの不協和音で機能不全を起こしているらしく、核を含む中心部の生きた部品による機構は普通に解体できたようだ。なので、こちらも可能な限り丁寧に解体されて運び出されているとの事。

 流石にいくら増幅しても、肝心のモンスターが倒されると領域スキルに相当する能力は維持が難しいらしく、ブロックに分かれている部分が減るごとに、そこが凹むようにして陽炎のような境界線は大陸の方へと押し込まれている。


「……問題は、制限時間ですよね。主にこの不協和音がいつまで続くか、という意味で」


 もちろんこの動きは「モンスターに一切の動きが無い」からこそ出来る事であり、その大きな理由である不協和音が止まってモンスターが動き出したら、そこからの苦戦は免れないだろう。

 いくら地上に踏み込める場所が出来たと言っても、流石に私がそこに居たら文字通り袋叩きを食らうだろうし。領域スキル相当の能力を押しのけただけで土地の除染自体は出来ていないのだから、当たり前に危険なのだ。

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