第1126話 39枚目:要救助者の話

 今後の方針が決まった訳だが、恐らく、ここまでが一般公開されている情報だろう。そう、まだ続きがあったのだ。それも機密レベルの高いやつが。

 読み進めた時点で頭が痛くなってきたのだが、それでも動かない訳にはいかないだろう。こっちはこっちで「そう来る?」だが、うん。放置はできない。フリアドにおけるなんやかんやを考えるとヤバ過ぎる。

 ……「モンスターの『王』」の力で歪められ溶かされ、球体と水の玉になっていたのは物質系種族の人達だった。彼ら曰く、自分たちは丈夫だし、そうそう死なないし、というか素早く動くのが苦手なので逃げずに防御を選び、防ぎ切れずにあの状態だったそうなのだが。


「ここで、来ますか……いえ、順番としては、何も間違ってないというか、とても妥当なんですけど……」


 1種族だけ。物質系種族の中で1種族だけ、世界単位で絶対に無視できない種族がいるのだ。もちろん他の物質系種族を軽視しているという訳ではなく、その1種族が重要過ぎるのだが。

 そう。

 …………御使族だ。


「そりゃ属性は違えど領域系の能力が強化されるはずですよ……」


 世界三大最強種族、その最後の1つだ。竜族は竜都で防衛戦争をやっているか始祖と共に封印されていて、不死族は離島を工房化して個人単位で引き籠っていた。だから行方が分かっていなかったのは御使族だけなのだが、ここで来るかー。

 どうやらあの一回り大きく、内部の色数も多かった、4ブロック1セットが4セット集まった中心にあった球体が「そう」だったようだ。マジかぁ。ヘルトルートさん超グッジョブ。

 「第一候補」からすれば初の同族だな。フリアド4年目に突入してようやくの合流か。長いな。いや、ほんとに。だからなのか、今まだ「第一候補」が色々話を聞いているようだ。


「さて。とりあえず私もその場に合流しましょうか」


 ログインしたら来てほしい的な事を「第一候補」が書き込んでいたところまで読んでスレッドの最新に追いついたので、メニューを閉じてベッドから降りる。いつもより念入りに皇女仕草に気を付けておかないとな。偉い人相手だから。




 さて。救出された住民の御使族であるブライアンさんだが、【人化】するとにこにこ穏やかな笑みを浮かべるふさふさ白髪白髭のおじいさんだった。これでもうちょっと体に厚みがあったら是非赤白の服を着てほしかったところだ。実際着ていたのは白ベースに紺と金で装飾が施された、司祭感の強い神官服だったけど。

 ちなみに本来の姿は、薬草の繊維を集めて織られた特殊な手ぬぐいサイズの布、との事。その個人特性上、回復や治療を権能に持つ神々を信仰しているので、回復は大変得意との事だった。まぁそりゃそうだろうな。聞くだけで回復に特化してるのがよく分かる。

 で、そのブライアンさん曰く。御使族は地理的特徴の関係で、非常に近い位置にある2つの大陸、その中間地点にある島に大半が集まって暮らしているのだそうだ。聖地的なあれかな。


『聖地的なあれであるな。謂れは聞いたが、長いので省略すると天地創造の一歩目であるらしい。故に神の力が受けやすく、通りやすいという事である』

『なるほど』


 ウィスパーで「第一候補」から簡単な説明を追加してもらい、話の続きを聞く。信仰の力が通りやすい=ブーストされる土地に信仰特化の種族が住んだらどうなるか、というのは火を見るより明らかってやつであり、世界規模スタンピートの時もどうにかしのぎ切れたらしい。

 元々物質系種族はあまり補給を必要としない。だから変わらず信仰を捧げつつ神の力による守りを維持し、状況が改善するまで耐えしのぐ。これ自体は出来ない事ではなかった。実際に諦めたのか別の所に注力を始めたのか、モンスターの群れがマシになるまでは耐えたそうなので。すげーな。

 なのだが。結果として世界規模スタンピートの前後で生活をほとんど変えずに過ごしていた御使族に、徐々にだが異変が起こり始めたらしい。始めは神の応答がやや鈍くなる程度から、やがて神の声と気配が全く届かなくなり。降ろせる神の力も減少傾向を見せていったようだ。


『真綿で首を締めるように……で、あるな。恐らく、異界の理を根付かせる事による神の力の妨害で間違いないであろう』

『というか、それしかないですよね。北国の大陸以降は大体そうでしたし』

『あの二極の大陸はまた少々事情が異なっておったがな』


 ここで人魚族の神官さん達と違ったのは、御使族の信仰が揺らぐことは、それでも一切無かったという事だ。大事な物を集めて守れる範囲を小さくしたり、儀式場を整え直したり、各設備の掃除や整備の頻度を上げたりして対応したらしい。

 なのだが、ブライアンさん曰く、異常はそれ……神の力の妨害に留まらなかったようだ。本人から聞いた通り、ブライアンさんは治療を大変得意としている。それは物質的な物だけではなく、精神的な物も含めてだ。

 最初は、長引く籠城という戦いに対する疲れがとうとう表面化したのかと思ったらしい。だがブライアンさんに、主に精神的な治療を頼みに来る人数はじわじわと増えていき、ブライアンさん自身にもその、一見疲れに見える兆候が出始めた。


「始めは、気の迷い、と断じたそれは、日に日に大きくなる一方。最終的にはそうとしか考えられなくなり、自ら守りの外に出て……そこで、記憶は途切れておりますな」


 どういう事かというと。……異界の理の気配、「モンスターの『王』」の異質な気配が、自分が信仰する神々の気配に感じられた。という事らしい。で、守りの外に出てしまえば、後はまぁ、お察しの通りというか。

 うん。つまり、今回の“溶”かすと“歪”めるは、精神干渉が可能であることが確定した。……いやー、いよいよ面倒な事になって来たな。

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