第1110話 39枚目:火力と変化

 という事で、土曜日だ。ちなみに日中は私もログインしているが、タイミングを合わせて一気に火力を叩き込んだ方がいいだろうって事で、私も神の力が込められたアイテムを作っていた。

 ほら、実際の現場というか戦場では、私が領域スキルを展開するからさ。そこで使う以上、私が作ったやつが一番威力的な意味でブーストがかかる訳で。ちょっとでも火力は必要だから。うん。

 ……ルールに聞いてみたところ、【結晶生成】と【魔力実体化(○○)】を同時に使う事を意識したら、その魔法が込められた宝石が作れるというのが判明したので、それもこそこそ作っておいた。


「まぁ私が担当する方は魔法がほぼ効きませんので、活用していただければ」

「割と本気で~、「第三候補」自身が戦略物資よね~」

「知ってます」


 作った分は「第五候補」に預けたので、上手く使ってくれるだろう。見た目は片手で握りこめるぐらいの裸石ルースだし。威力も私基準とはいえ進化してガクッと落ちてるから、飽和攻撃に混ぜれば問題ない筈だ。たぶん。

 見た目には宝石ごろごろ、実体は魔法的爆弾の山を渡された「第五候補」にそんな事を言われたが、知ってるんだよな。主に種族特性の辺りで。そもそも全身が超レア素材の塊だし。

 エルルに見つかるとまた怒られてしまう物資の受け渡しをこそこそやって、戦場近辺、というか、力場的除染の後拠点化した島の転移ポイントへ移動しておいてからログアウトだ。


「とりあえず、上陸の道筋ぐらいは見えておかないと後が厳しいよなぁ……」


 流石にイベントを、期間の半分で走り切れるとは思っていない。もちろん可能ならあの砦の上まで私が突入して、完全に相手の領域スキルっぽい能力を無効化するぐらいはしておきたいが……今までの事を考えると、まぁ無理だろう。

 なので今回司令部は、相手が持っているだろう大技を引き出す事を目標としている筈だ。1つで終わるとは思えないが、まずは相手の手札を確認しておかないとな。何があるか分からないと、対策のしようがないから。

 まぁ実際手札を確認しただけで対策できるかどうかは別の話なのだが、そこは司令部だから。確認さえできれば、それに対する対策は何とか編み出すのだろう。


「まぁ要特級戦力とか言われたら、その時はその時だ。頑張ろう」


 さて時間だ。海から陸への攻城戦が、本格的に開始だな。




 全体の流れとしては、まず今までと同様にピッチングマシンもどきを乗せた召喚者プレイヤーの船が海岸線に向けて広く展開、一定間隔ごとに攻撃力のあるアイテムを叩き込んでいく。

 その攻撃に対してある程度修復の動きがみられたところで、司令部からの合図でエルルを含む竜族の人達によるブレスの集中砲火。同時に後ろで出番待ちしていた召喚者プレイヤーの船が前に出て、特に攻撃力の高いアイテムをピッチングマシンもどきで叩き込む。

 司令部によれば、今までの修復速度的にここまでやれば多少は防御に綻びが出る筈だそうなので、可能ならその綻びから、どこかの長い城のような砦を切り崩していく、という感じだ。後は出たとこ勝負だな。


「で、火力を叩き込んで、それが上手く決まって、砦の一部が崩れたのはいいんですが――」


 しっかりと足をエルルの鎧に固定して旗を高く掲げ、台風の日にうっかり外に出てしまった時のような圧力に目を細めて耐えつつ、意識して魔力やスタミナを領域スキルに流し込んで強化しながら、視線を向ける先。そこには確かに、砦の一角が大きく崩れているのが見えていた。

 そんな場所があれば、本来なら、待機している突入予定の召喚者プレイヤー達が大挙して押し寄せている筈なのだが、今私を含めて召喚者プレイヤー陣営に余裕はない。何でかって?

 司令部は予想していたし、私達も覚悟していた。あの長い城のような砦が、あの島と同じものなら、何か大技がある筈だ、と。そしてそれが発動されるのは、多少なりと痛打が与えられたときだろうとも。


「――領域スキルもどきの強化、だけならともかくっ! あんな、明らかに収まり切る訳が無い数のモンスターが雪崩を打って出てくるとか、流石に想定外なんですよねぇっ!」

『ついでに、随分と追い回してくれるようになったもんだな!』


 ここまでの島と同じく、集団から射かけられる矢のように、比較すると細いと言っても十分に巨大な槍の群れを回避しつつのエルルもあんまり余裕はない。

 相変わらず回避をお任せしているのだが、島と違って相手がでかい上にどこかで折り返さなきゃいけないからな。距離を開ける訳にはいかないから。回避の難易度は上がっている。

 相手のリソースは削れているんだろう。削っている実感はある。が。それはそれとして、普通に戦力的には厳しいんだよな。


『しかしあのモンスター、陸地にいるやつに見えるが、海に飛び出しても普通に動いてるのはどういう事だ……!?』

「ははは、相手は“歪”めると呼ばれる能力持ちですからね。どれだけ歪であろうとも、ヒレやエラを追加するぐらい朝飯前なんでしょう!」

『そうか、生き物の形を変えるのは相手の得手だったな。にしても、また随分と碌でもない力だ……!』

「心の底から同感です!」


 ほんとにな。召喚したモンスターをカスタマイズするなら戦力が無駄にならないのは分かるが、いい加減にしろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る