第1100話 38枚目:探索模様

 厄介なことが判明した。


「まさかの領域スキル相当能力持ちですかー……」

『島そのものじゃなくてその奥にいる感じなんだろうが、厄介だな……』


 何の事かというと、いつかゲテモノピエロと直接相対した時に見た陽炎のようなもの。一応「第一候補」に確認したところ、あれは領域スキルが反発するもの同士だった時に見えるもので、せめぎ合いの境目でいいらしい。あれが、私が近づくと見えたのだ。

 この状態で無理に出力を上げて押し通ってもあんまり良い結果にはならない、という「第一候補」からのアドバイスを受けて、司令部と検証班が今領域スキル無しで島を調べてくれている。

 流石にトゲトゲしているといったって、1つが最小5mサイズからだ。一般人間種族以下の大きさなら普通に潜り込める。海中もトゲトゲしているが、小型のボートくらいなら普通に接岸できたようだ。


「で。……連絡らしい連絡が無いって事は、まぁ、大神の加護が遮断されてるって事ですよね、これ」

『予想通りだな。連絡の手段は色々持って入ってるだろうから、連絡が無いって事は探索が進んでる、って事でいいんだよな?』

「いい筈ですよ。仮に探索の暇もなく倒されていたら、その時は大神の加護で後方に戻っている筈ですし」


 島に目を凝らしても、動いている筈の召喚者プレイヤーは見えない。トゲトゲした根本はやっぱり平らではなく、最低でも入り組んでいる事が確定でいいだろう。

 島の元の形がどんなだったかは知らないが、既に「モンスターの『王』」は残り3体。選択肢としては2択だ。となれば当然相手には予想がつくので、それから考えると、トゲトゲ突き出た分だけ内部は空間が空いてるんじゃなかろうか。

 とか思いながら島に目を凝らしていると、1つのトゲトゲを登っている召喚者プレイヤーが見えた。あ、やっぱり視界が遮られているとかじゃないんだな。しかし登れるのか、あれ。


『ん? なんか登ってるな』

「あ、エルルにも見えました?」


 その召喚者プレイヤーはすいすいとほぼ先端まで登ると、トゲトゲの尖っている部分にロープを巻き付け始めた。そしてその反対側を自分の腰に巻く。そこから少し下がって、もう一度同じことを繰り返した。

 で、インベントリから大きなハンマーを取り出す。そして、ガンガンと2本ロープの間にたたきつけ始めた。……もしかして、トゲトゲの先端を折って回収するつもりなんだろうか。


「……サンプリングになるんですかね」

『かも知れないが、大丈夫なのか……?』

「まぁ、そういう反応を含めて確認するのが今回の探索ですし……」


 その様子を見ながらエルルと会話している間に、トゲトゲの先端にはヒビが入り始めていた。最前線の探索に参加できる召喚者プレイヤーって時点で、かなりステータスは高い筈だからな。早い。

 一応こっちでも警戒しとくか、と旗の柄を握りなおす。実際に掲げる訳ではないが、装備品としては棒に属し、杖ほどではないが魔法に対する補正もある。もちろん魔法を叩き込むのではなく、周囲への防御や支援がメインだ。

 一直線に入ったヒビはそのまま打点の反対側まで走り、幅を広げ、当然の結果として、バキッ、という音と共に折れた。


「……。とりあえず、折れたからどう、という反応はない感じ、ですかね?」

『そうみたいだな』


 何かが噴き出したり、爆発したりといった反応はないようだ。トゲトゲの先端をへし折った召喚者プレイヤーは順調にロープをたぐって折れた先端を回収している。手元に来た時点で折れた部分が消えた、という事は、無事インベントリに入ったのだろう。

 その召喚者プレイヤーはそのまま、もう少し下にロープを巻き付けて再びトゲトゲを折りにかかるようだ。どこまで折れるのか、もしくは何か材質的な意味での変化はあるか、の確認だろうか。


「とりあえずあれは持って帰ってくるでしょうし、司令部からの報告待ちですねぇ」

『そうだな。見えてる範囲だと他に動いている場所もなさそうだから、地下もあるんだろうしな』


 ハンマーで叩いて順調にヒビを入れていく召喚者プレイヤーから島全体に視点を戻すが、確かに、他に動いている場所はなさそうだ。まぁ見える範囲では、なんだけど。

 とりあえず探索は順調らしい。これなら出番はなくて済むかな。

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