第1088話 38枚目:イベント開始

「……うーわ……」


 一応様子見は必要だろう、って事で、イベントのお知らせが届いた翌日。久々にエルルに乗せてもらって竜都の大陸、その東側の海、竜族が海産物を得るために行動している半径の外に出てみる事になった。

 一見見た目は時々何かが跳ねるぐらいで普通の海、だったんだが……。とりあえず軽く一当て、と、軽く氷属性の魔法を投げ込んでみたら、うん。どっっざばぁぁああああ!! って感じで、すごい数のモンスターが躍り出てきたから、驚いたよね。

 今回は私の視点で掲示板に動画を上げながらなので、見た目の普通さも、その後にどれだけのモンスターが出てきたかも、それはもうよく分かるだろう。たぶん検証班辺りが、この動画を材料にして、出現モンスターの一覧を作っている筈だ。


「これは何というか、神々から託宣という名の警告が来る筈です……」

『俺らでも流石にちょっと厳しいな。軽くつついてこれって事は、船で通ったらもっと深いところにいる奴も反応するって事だろうし……』


 とりあえず分かるのは、これは確かに渡鯨族の人達では無理って事だ。竜族が全力で護衛についても厳しいどころではないだろう。そして、かなり高い確率でこれらのモンスターは、次の大陸から供給され続ける。すなわち無限湧きって事だな。

 神々の対策が何かは分からないが、イベント前に少しでも片付けておく、というのは無理そうだ。もちろん、素材を集めるとかそういう事なら無駄にはならないだろうが。


「とりあえず、エルル。もうちょっと場所を変えたり、貫通力の高い魔法を撃ちこんでみたりして、モンスターの種類を出来るだけ確認しておきましょう。多少は対策が出来る筈です」

『分かったところで対策出来るかどうかは別なんじゃないか……?』


 全くの未知よりかはまだマシだろう。たぶん。それに多少でもモンスターの傾向が分かれば、この先にいる「モンスターの『王』」の能力も少しは分かるかもしれないし。




 という感じで色々やってみた訳だが、とりあえずモンスターの種類も数もひたすら膨大、という事しか分からなかった。『アナンシの壺』からモンスターの情報が公開されてはいたが、モンスター単体を狙えるかと言われると無理だったからだ。

 なおちゃんと(?)モンスターの群れではあるらしく、ルウが海中から近寄ってみたら袋叩きにされかけた。慌てて救助したが、これで普通の魚が混ざってない事はほぼ確定だ。


「あった筈の美味しい海産物が……!」

『お嬢、そこじゃないだろ』


 わざとだよ。今からそのモンスターの群れを、殲滅とはいかないまでもある程度は減らして突っ切ってその向こうの大陸に辿り着かなきゃいけないんだから、ちょっとぐらいふざけてもいいじゃないか。

 なお現在はイベント4日目、イベント最初の土曜日の午前中だ。最初の3日は平日だし、今回のイベントにおけるイベントボーナスがちょっと分かり辛かったので、検証に費やすことになった。

 どうやら神々の用意した対策、というのは、神の祝福や加護といったものの効果が上がるというものだった。僅かばかりと書いてあった通りなのかそれとも係数的な話か、あるいはすでに妨害が始まっているのか、上り幅はそこまで劇的なものではなかったが。


「まぁでも、上がらないよりはよほどいい事です。それに補正が微々たるものでも、元が大きければ絶対値が変わってきます」

『……しかし、よく作ったな、そんなの……』

「アラーネアさん達には感謝しかありませんね。今回全面協力との事でしたし」


 ちなみにルイシャンは現在、【人化】したマリーとフライリーさんを乗せてちょっと離れたところにいる。何でかっていうと、流石にルイシャンは小柄だからだ。

 普段なら、フリアド平均身長からすれば小柄な私が騎乗するのにちょうどいいし、小回りが利いてとても素早い上に自動防御があるので、エルル達からも乗る事を推奨されている。

 なのだが。今回は、違うのだ。……アラーネアさん全面協力の上、ヘルマちゃんを筆頭にうちの子生産組が全力を出して張り切った結果、以前手に入れたものの使い方が分からず預けたままの「無縫の白布」を持ち出して何が出来たかっていうと。


「…………正直、自分でも、これって何の決戦兵器だろうって思いましたけど」

『……お嬢が持って俺の上に立つと、まぁそうなるよな……』

「いやぁ、今から諸々の補正の跳ねっぷりが怖いですね。やらない選択肢はないんですが」

『相手が相手だからな…………』


 長さ2m強。ティフォン様に貸してもらった大戦槌と良い勝負である長物の先には、銀色に染め抜かれた幅50cm、長さ1mほどの布が付けられていた。

 全体はつや消しであり、その縁取りと真ん中のシンボルだけがきらきらと輝いている。そしてそのシンボルは、ジプソフィアの花冠を図案化した円の中に、うずくまるように身を丸めて前を見る竜が描かれたものである。

 うん。つまりは、私の公式のシンボルだな。素材やらなんやらの時点で大体お察しだと思うのだが、この装備のステータスはこちらだ。


[アイテム:皇竜の御旗(ルミナルーシェ専用装備)

装備品:長棒(攻撃+*6・魔攻+*6・神の加護強化+*10・一部スキル効果+*10)

耐久度:100%

説明:神から与えられた金属を皇竜の鱗を使って鍛え上げられた棒と

   これ以上なく加護と祝福を受けた布地で作られた旗

   武器としては棒に属するが、掲げる事で旗として用いるのが本来の用途

   正しい持ち主が振るえば、神の威がいかんなく発揮されるだろう]


 うん。…………なんかもう色々諦めるしかない。

 なんだろうね、これ。人造神器かな。なお、一部スキル効果に該当するのは、領域スキルに加えて各種指揮スキルとの事。

 いやぁ。使う前から怖いのは流石に初めてだなぁ。

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