第1087話 38枚目:イベントのお知らせ

 大半の一般召喚者プレイヤーはイベントダンジョンで探索している間、私達は不死族を探して点在する島を飛び回っていたが、一部トップ召喚者プレイヤーもそちらはそちらで、渡鯨族の港町を再建させることに力を注いでいた。

 竜都の大陸は円を3つ重ねた感じの、何かのグラフかクローバーの葉に近いような形をしている。交差円図、でいいんだっけ? で、その1つは西を向いていて現代まで竜族が守り続けた部分だが、どうやらその円の端に1つずつ渡鯨族の港町があったようだ。

 さて。ここで問題なのは、次の大陸に向かう為の場所が2つあるって事なんだよな。そして、竜都で手に入った世界地図でも次の2つの大陸は距離が近い。それこそ渡鯨族に頼らず、普通の船で行き来できるほどだ。


「やはり予想通り、2つの大陸を1度に攻略する必要があるんでしょうね……」


 まぁこれは最前線にいる召喚者プレイヤーなら大体が予想していたことだ。何せこの竜都の大陸で、2体同時に相手をしている。竜族との合流があったとはいえ、この大陸に平和が戻ったから竜族との協力関係が終わる訳ではないのだし。

 一度上げた難易度を下げる運営ではない。それは嫌というほど分かっている。それは……まぁ、良くはないが、どうしようもないので置いておくとして、だ。


「ところでフライリーさん、大丈夫ですか?」

「いやー、自分の限界速度以上で動くのって久しぶりっすねー!!」

「やっぱり一旦島に戻って、落ち着いた状態で見た方が良かったのでは」

「今まで可能な限り先輩と一緒に見てきたっすから、やっぱり一緒に見るのがいいっすー!」


 現在、私はルイシャンに海の上を走ってもらいながら、島の探索を続行している。そう。リアルでの月は変わったが、まだ不死族の人の探索は続いているのだ。何せリストは全部埋まっていないからね。

 そこにイベントのお知らせが来たもんだから、フライリーさんとマリーには私抜きで確認しておいてほしい、と伝えたのだが。


『あら、わたくしがいる程度でスピードが落ちる子ではないのでしょう?』


 という事で、フライリーさんは私の頭の上にしがみついて、マリーは猫姿で私の前に座る形で、ルイシャンに同乗している。いや、私はステータスの暴力でさらっと耐えてるけど、割とスピードを出している現状ルイシャンの上は結構風が強く当たるぞ。

 なお、既に風属性による防御は張っている。その上での話だ。フライリーさんは見えないが、マリー、毛が逆立つみたいに全部後ろに流れちゃって大変な事になってるけどいいの?

 ……どうせブラッシングするのは私か。そうか。ちゃっかりしてるなこのお嬢様は。


「それに最近だと、島じゃない方が落ち着いて先輩の頭の上にいれるっすからねー!」

『膝の上はわたくしのものですけれど、こうして騎乗状態なら一番のライバルには手出しできませんし?』

「まぁそれでいいならいいんですけど。さて、そろそろ休憩しましょうか」


 流石にルイシャンに乗ったまま駆け回りっぱなしという訳ではない。むしろルイシャンの実年齢を考えれば、休憩は頻繁にとるべきだ。だから私はその合間にイベントのお知らせを確認するつもりだったのを、2人に伝えるとついてきたんだよな。後輩と友人が可愛い。

 という訳で、船を含めて周りにいる人(竜族)に手を振ってから、正真正銘の無人島の1つに立ち寄る。たまーに何の気なしに降りた島に不死族の人がいて、踏み入った事で迎撃が発動、なんて事もあるが……とりあえず今回は平和みたいだな。

 ルイシャンに果物と水をあげて、椅子を出してマリーをブラッシング。ついでにフライリーさんの髪も梳かして、イベントのお知らせを確認だ。まぁまず次の大陸関係だろう、と予想して読み進めたのだが……。


「……そう来ますか……というか、そこからですか……」

「ひぇ。なんか主に火力的な意味で大盤振る舞いだとは思ったっすけど。思ったっすけど」


 ……えっと、とりあえず、バックストーリーを確認しようか。



 大陸がまた1つ解放され、その元凶たる異世界からの侵略者をひとまず無力化出来た。それも、2体同時に。その快挙に対し、神々はほっと安堵の息を吐き、あるいは祝杯を挙げた。そこには竜族、及び、太古の英雄達の復活も含まれている。

 平和を取り戻した大陸が増えたことで神々の力も増している。この調子ならば次の大陸も。と、意気込んだ神々だったが、その出鼻は、大陸に至るまでの道のりが、あの大規模な襲撃の時と良い勝負な数のモンスターで埋め尽くされている、という事実によって挫かれた。

 流石に渡鯨族であっても、この中を移動する事は不可能だろう。竜族が共に行動したところで、どれほどの安全が確保できるものか。神々は大陸以前にそこまでの道のりが不安定であると知って、集まりを開き、相談し、知恵を出し合い、僅かなれども対策を考え、召喚者に託宣を下すのだった――――。



 っていう、事でな。


「まさか大陸に辿り着くまでが1つのイベントとして扱われるとは思いませんでした」

「つーかこれ、イベントになるってどんだけモンスターが道中いるんすかね……?」

『それに、生き残っているのは海に適応した種なのでしょう? その時点で更に厄介さが上がっていますわね』


 まさか、大陸に辿り着けるかどうかから分からないとは思わなかったな。

 ははは全く。……いやマジでどうすんだこれ。

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