第1089話 38枚目:突入開始

 これは……ヤバいのでは……? という予感がひしひしする訳だが、今更止める事は出来ない。何せ私を中心に、すっかり空中戦をするつもりの竜族の人達や召喚者プレイヤーが、今か今かと司令部のゴーサインを待っているからだ。



 今回のイベントだが、例によって有名クランから有志を募って構成された司令部の作戦としては、まず召喚者プレイヤーと古代竜族の人達という空中戦力で大陸の方向へ移動。一定以下の高さなら海の中からでもお構いなく襲い掛かってくる筈との事なので、これを返り討ちにしつつ前進。

 ある意味囮でもある空中戦力がある程度先に進んだところで、海竜系の竜族の人達や水生種族の人達、【潜水】等のスキルで海中戦が出来る召喚者プレイヤーを中心とした海中戦力が移動を開始。主に空中に出てこなかった、海の深い部分にいるモンスターの相手をする。

 上下からの攻撃とアクションでモンスターの群れが薄くなったところで、小船を操作したり、水の上を走ったり、泳げるけど深くは潜れない馬相当の生き物に乗った召喚者プレイヤー達が突入。そのままいけるところまで大陸に近づく、という感じになる。



 ちなみに空中戦力は私が、海中戦力はネレイちゃんが、船団は「第一候補」がそれぞれ神の加護を強化する担当に入っている。だからネレイちゃんと「第一候補」も、私の旗と似たような装備を渡されていた。

 そちらの詳細は分からないが、まぁ、神の加護及び祝福を増幅する方に振り切った、本気も本気のプレイヤーメイドだ。それを、御使族という信仰特化種族と、色々重なって巫女から神子になりそうな海特化種族が使うんだから、間違いなく出力が桁外れになる。

 まぁ、それぐらいパワーアップ……というか、ブーストしないと、人数が人数だからな。その分展開している範囲も広いから、収まり切らないんだ。


『ちぃ姫さん。そろそろ開始時刻ですので、準備の方をお願いします』

『分かりました』


 とかやってる間に、カバーさんからのウィスパーが届いた。司令部からの指示が書き込まれる掲示板とメニューの時刻表示を見ると、残り数分を切っている。

 まぁ準備と言っても、私は自分の着ているドレスに鎧を重ねたような装備を確認して、ティフォン様とエキドナ様に貰った「ジプソフィアの冠」(耐久性上昇加工済み)の位置を直すだけなんだけど。エルルはこの場にいる時点で出来る準備は全部終わらせている。

 旗部分を巻き付けて、自分の横に寝かせるようにしてある旗を、両手で持って体の前へ。しゅるり、と勝手に旗部分がほどけて、ばさりと海風になびいた。そのタイミングで、キィン、と、ハウリングのような音が響く。


『――それでは、これより! 次大陸への航路開拓作戦を! 開始します!』


 拡声された司令部からの作戦開始宣言。それに合わせて、両手で持った旗を、高々と掲げた。同時に2つの領域スキルを発動。そして


「[我が守護神よ

 我らが始祖よ

 どうか

 宿した意志を貫く為の護りを

 害意に呑まれず進む為の力を

 どうか此処に

 お与え下さい]!!」


 祝詞の奏上。今だけはどうなるか分からないとか言ってる場合じゃない。ここで臆して足りなければ誰かがいなくなる。それは、それだけは、絶対にさせない。そう強く思いつつ、言い切った。

 瞬間。


「っく……!」

『っ!?』


 度の合っていないレンズを覗き込んだような頭痛がした。エルルも微妙に姿勢を崩しかけたようだが、僅かに揺れた程度でとどまったのは流石だ。

 が。周囲……というより、空中戦力に属している人たちはそうではなかったようで、若干の混乱が見られた。うーん、やっぱり思った通り、補正がすごい事になってるな。たぶんだけど。影響下にある人、今は誰も力加減できないんじゃないかな。

 けどまぁ、それはそれ。それぐらいは必要だと司令部が判断する程度の敵がいる事は、自分で確認している。だから。


「総員。――――戦闘、開始っ!!!」


 力の限り。指揮スキルに乗せるよう意識しながら、全域に響き渡れと、号令をかけた。

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