第1062話 37枚目:決戦進捗

 という訳で、昼休憩をはさんで再びログインだ。『アウセラー・クローネ』のメンバーとしては、夜の日付変更線直前に再び全員を揃え、それまでは順番に入れ替わり立ち代わり、という感じになる。まぁ特級戦力だからね。

 地上の防衛は今のところ、ほぼ住民だけで上手くいっているらしい。竜族の人達の士気がとにかく高いんだってさ。なんでだろうね(棒読み

 まぁそれも、地上に全域デバフ負荷が出ていかなければ、の話だ。あれがあるだけで召喚者プレイヤーの負担が一気に増えるからな。本当に厄介極まる。


「まぁ、何か対策しなければ、竜族の人達だけで戦力的には十分、に、なってしまいますから……ある程度は仕方ないんでしょうけど」


 だからたぶん、ここから先はずっとこの調子で、まずは異界の理というものを排除しつつ拠点を作るのが基本工程になるんだろう。本当に厄介というか手間がかかるが、運営の方針なのだから仕方ない。

 確かに召喚者プレイヤーの活躍の場がほとんどないゲームっていうのもどうかとは思うけどね? 思うけど、それにしたって、だ。本当に最初の方の、ステータスの暴力で殴れば割と何とかなった頃は楽だったな。

 シンプル・ザ・ベスト単純なのが一番とはよく言ったもんだ。単純作業オンリーだと流石に飽きてしまうが、ややこしいが過ぎると楽しさにしんどさが勝ってしまう。


「とは、いえ。今はあのでかいのを殴って殴って殴り倒せばいいんですから、目的も手段も、限りなく明瞭になっているんですけど」


 うん。やっぱり運営はギミックを盛りすぎだな。もうちょっと薄味でもいいと思う。やる事が多すぎて召喚者プレイヤーの消化能力が全く追いついてない。

 私に限っても、消化できたのは竜族の神器回収の一部と、ヘルトルートさんの延命、エルルの進化ぐらいしか出来てないんじゃないか? 神器回収はまだ続きがあるだろうし、エルルの人間関係から色々掘り下げられそうな気がするんだよな。

 絶対に色々まだまだサブイベントもしくはミニイベントのとっかかりは山ほどあるのに、ほとんど手を付けられてないとかちょっと待て案件だぞ。全部メインシナリオという毎月イベントが忙しいのが悪い。


「……まさかとは思いますが、その辺りは全部、メインシナリオが終わってからのお楽しみ、とか言うんじゃないでしょうね……」


 ……何が嫌って、それが十分にあり得る事だからだよ。

 残っている大陸はあと3つ。順当に行けばあと3年、次の大陸を2つまとめて攻略させるつもりならあと2年でフリアドのメインシナリオは完了だ。

 フリアド自体の売り上げとしては、絶好調と言っていい。その絶好調の状態でフィニッシュを迎える、というのも1つの戦略だろうが、世界そのもののボリュームを考えると、むしろそこからが本番、って気すらするんだよな。


「とりあえず目に見える侵略者を一掃し、全ての大陸の行き来を復活させて。ようやくそこから――」


 ――召喚者プレイヤー個人の冒険が始まる。そういう筋書きであっても何もおかしくない。世界を救うのが前提条件とか、本当にどうなってるんだろうな? 何年遊ばせる気だよ。一生か?

 フリアドを始める前なら笑い飛ばせていた。『スターティア』観光ツアーに行くまでなら否定出来ていた。だが今は、顔が引きつる。何せ、もしメインシナリオが終わって、それでも召喚者プレイヤーという役のまま放り出されたら、ゲームを辞めるかと自分に聞けば、食い気味のNOが返ってくるからだ。

 魔物種族と人間種族が共に暮らす集落を、姿を隠してとはいえ散策するのは非常に楽しかった。あれだけで無限に時間を溶かす自信がある。ましてやそこに、職業ギルドや露店を通して参加できるとか、絶対楽しいに決まってるじゃないか。


「何より、レイドボスが、高確率でまだまだ残って・・・・・・・いますしね……」


 大神が抱えて眠る、世界単位の「大きな傷」。あれもたぶん、まだまだ存在するだろう。それに何より、侵略がこの1回とは誰も言っていない。もし空間的な繋がりがあったりしたら、侵略元の世界にまで行けるんじゃないか?

 考えればいくらでもありそうな可能性は出てくる。そしてフリアドの運営は、結構な頻度でそういう予想の斜め上をいくイベント展開をしてきた。だから、まだ何か、隠し玉のようなものがあってもおかしくない。というか、たぶんある。


「むしろない方が違和感。……というのは、慣れとくくってしまっていいものなんでしょうか」


 まぁ慣れとしか言いようがないんだけど。

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