第1061話 37枚目:決戦状況

 その後しばらくして、司令部はざっくり戦力の分布を決め終えたらしい。一緒に突入していた司令部の人達による指示で、一部召喚者プレイヤーは中継拠点の防衛に回る事になったようだ。

 私は引き続きここで領域スキルを展開しつつ、少しずつでもいいので前に出てボスに圧力をかけてほしい、との事だった。そしてカバーさんによれば、ソフィーさん達とマリー達、フライリーさん達も私に合流するらしい。

 一方内部に入れないサーニャ達だが、ようやく正面から戦闘に参加できると、相当に張り切って地上での戦いに参戦しているらしい。……嬉々として首をはね回っているルシルが想像余裕だった。


「そうなると、ここで大元にどれだけ圧力をかけられるかが地上や前半での全域デバフ負荷を軽減できるかにかかってそうですね」

「そうですね。もしここで圧力をかけられず周囲に負荷がかかっていくなら、そのままずるずると押し込まれることになりそうです」


 という事なので、私はせっかく2重に領域スキルを展開しているのだし、他の人達に守られる形になっているのだし、と、宝石で自分を飾る事と2重バフはしないだけで、しっかり詠唱して魔力を込めた、超長射程かつ大火力の魔法を、「蝕み毒する異界の喰王」本体と思われる巨大な樹へと叩き込むことにした。

 属性の通りとしては地上で散々相手にしてきたモンスターとほぼ一緒だ。継続ダメージ付き、つまり周囲に被害が出るタイプの魔法だと、実から変化して襲い掛かってくるモンスターの数が減るところもほぼ一緒である。

 なので、基本は【火古代魔法】を使っている。削れるうちに削らないとね。何せ現在は、8月最後の日曜日なんだから。ここで削り切れなきゃかなり相当マズい。相手にも言える事ではあるが、数とは力だから。


「それでなくても最奥の圧力が緩めば、どんどん状況が悪い方へと転がっていく推測が既に成り立っているんですし。何より心情的に、ようやく本体が出てきたのですから、ここで仕留めておきたいんですよね」

「そうですね。司令部も、可能なら本日中に決着をつけておきたいようです。……以前の事を考えると、その後に特殊な何かが発生する可能性もありますので」


 そうか。それもあったな。今回も神々が力を結集して相手の領域を囲って閉じ込めてる筈だし、本当に今更だが、あの散々納品させられたアイテムっぽいものが全く出てきてないもんな。

 それで余計に召喚者プレイヤー達のヤる気が高いんだな……と、大変納得した。いや、以前の……「遍く染める異界の僭王」の時は酷かった。残り1日切ってからガチャを出すか、と。

 今回もその可能性があるから、何としても残り時間を確保したいのだろう。とてもよく分かる。住民の仲間の助けがあってもかなりキツかったから。


「次の大陸へ向かう方法が分かっていませんから、それを探る意味でも早回ししたいんですよね。この大陸には渡鯨族の港町が複数あったという記述がありましたから」

「そうですね。世界地図もようやく手に入りましたが、次の大陸はどうやら、今までと比べると、2つの距離が近いようですので。今までの倍の広さを、同じように2体同時に相手、という可能性が浮上していますし」


 ちなみにこの大陸においては竜族の首都があるからか、人魚族はあまりいないようだ。……まぁ、地上が大半とはいえ、他の種族を水場には近寄らせられんよな。大陸中央の、険しく硬い岩の塊である山に囲まれた湖の事を考えると。

 そういう訳で、ペースアップは望むところだ。2つのイベントダンジョンで進捗を合わせる必要があるとはいえ、それこそエルルに、あの広範囲をぶった切る斬撃でも使ってもらうべきかもしれない。


「向こうには「第二候補」がいるんですし、縦攻撃ならいけませんかね……」

「攻撃力の増強としては確かに有効でしょうが、恐らく反動も大きいかと」


 雑に瞬間火力が上がる方法を口に出したが、そうだね。それこそ今見えてる範囲が全部モンスターで埋まるとか、地上の湧きスポットが瞬間的に全部超大型モンスターになるとか、それぐらいは起こりそうだ。やめておこう。

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