第1063話 37枚目:進行苦戦

 ログイン時間調節の為にログインとログアウトを繰り返しつつ、周囲の様子を見ながら可能な限りの火力を叩き込んでいくと、どうやら私がログアウトしている間に、相手の動きに変化があったらしい。

 散々相手をしていた通り「蝕み毒する異界の喰王」は大樹の形をしている。一方「拉ぎ停める異界の塞王」はどうやら天突くような塔になったらしい。まぁやる事はどちらも変わらないのだが。

 で、どんな変化が起こったか、というと。


「でかい形になったんなら、動くなっていうんですよ……」


 要請がかかって慌ててログインした先で、思わず顔も声も引き攣ろうってもんだよ。ちょっと待て。ボスは大人しくダンジョン最奥のボス部屋で大人しくしててくれないかなぁ!? なおその時「ちょっと待てや運営ぃぃ――――っっ!!!」の合唱が響いたらしい。そりゃそうだ。

 流石に動きそのものはゆっくりだが、大きいというのはそれだけで脅威だ。そして大きいという事は歩幅が大きいって事で、動きはゆっくりでも移動スピードとしては結構速いときた。

 もちろんモンスターの群れを召喚し続ける動きに変化はない。ははは全く、やってくれたな運営……っ!!


「そして当然出口に近づけば近づくほど地上に全域デバフ負荷の影響が出てくると。まぁ当たり前ですが」


 だから、相手がどれだけデカかろうがなんだろうが、止めるしかない。恐らく、あの前半と後半の区切りとなっている扉を越えたら『勇者』以外の住民の人達は動けなくなるんだろう。だから、絶対に、そこまでに止めなければいけない。

 そして実際のところ、どうやって止めるかというと。


「まぁ、火力勝負しかありませんよねぇっ!! ――――[レプリカ・レーヴァテイン]!」


 もう情報や手札の秘匿とか言ってる場合じゃない。自然回復をやや割り込む程度にリソースを【王権領域】に突っ込んで強化した上で、全身を宝石で飾り、2重バフも多少見えにくいように工夫しつつ解禁して、巨大な炎の剣を叩き込んだ。

 ボロボロと枝から落ちてくるモンスターが邪魔をするのだが、そこは他の召喚者プレイヤーの人達と連携し、モンスターの雨に穴を開けてもらって、そこに通している。

 太くつるりとした幹のど真ん中に叩きこまれた魔法により、根っこを持ち上げて、無数の足で歩くように移動していく「蝕み毒する異界の喰王」が、紅蓮の炎に包まれる。ぐい、と魔力を回復するポーションを飲んで、即座に全身を宝石で飾りなおした。


「継続ダメージは積み込まれている筈です。なのに、なんで移動速度が落ちないんですかね、全く!」


 次を詠唱する間に悪態をつく。そう。巨大な樹は燃えている。燃え続けている。轟々と音を立てて盛大に。間違いなく、ダメージは入っている筈なのだ。

 流石に副次効果である延焼効果より魔法アビリティのクールタイムの方が長いが、それでも相当なダメージになっている筈だ。実際、燃えている間は幹を走って降りてくるモンスターがことごとく途中で燃え尽きるので、ダメージが発生してない、って事もない。

 ちなみに、こうやって盛大に燃やす前は色々試してみた。主に行動阻害系の状態異常や、物理的魔法的な拘束手段を使ってみたりした。その結果があれだったので、こうやってダメージを加速させている訳だが。


「しかし、事ここに至って状態異常完全無効、いえ、湧きだすモンスターを残機もしくは身代わりにしている可能性もありますか。いずれにせよ、相手の体力という名のリソースを削り切らなければどうにもならない、という話なんでしょうが……!」


 流石にここまで来て情報の取りこぼしがあったりはしないだろう。いくら運営が情報の出し方が下手にもほどがあるとは言え、流石にここまでやって「探索が足りませんでした」って事は無い。と思う。無い筈だ。無いよな?

 万が一取りこぼしがあったとしても、今から回収するのは無理だから無いという事にしておく。だから、現状の手札でなんとかできる状態になっている、筈なんだが……。


「ここまで見事に全くの無反応だと、自信なくしますねぇ……」


 領域スキルの維持と強化で削れた体力等を、周りからの回復とポーションで補いつつ、気合を入れて詠唱に入る。

 ……正直、情報の取りこぼしについては自信がないんだよな。運営だし。検証班の人達と司令部の人達が計画組んで、指示を出して、行けそうなところはしらみつぶしにした筈だから、無いと思うんだけど。

 私のステータスが進化によって下がったから、特級火力として不足になってる、って理由の方が、かなり悔しいけど平和なんだよな。

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