第1053話 37枚目:最終探索

 幸い、というべきか。途中から合流してくれた「第一候補」が「拉ぎ停める異界の塞王」側のイベントダンジョンにおける置物役を担当してくれる事になったので、攻略にはさらに加速がついた。

 特に大部屋を攻略して進んだ先が、通路でできた迷路の範囲に入ってからは、ダストシュートから突入する事でその周囲に一気に要救助者が湧く(本当に「どっから出てきた」って感じで出現する)ので、救出に加速がついたな。

 ……「拉ぎ停める異界の塞王」の方はともかく、「蝕み毒する異界の喰王」の方はこれ、どういう理屈で出現してるんだろうな? これもこれで空間の歪みを便利に使ってるのか?


「何かタネがありそうな気はするんですが、そこまで細かく調べている暇はありませんからね……」


 そりゃまぁゲーム的都合による不思議な力と言われたらそれ以上何も言えないんだけどさ。大体そういうのは調べれば理屈が出てきたから、何となくだけどつついておきたい気がするんだよな。……後でカバーさんに相談しておくか。

 そしてその司令部の指揮により、推定だが大部屋を半分まで進んだところで私が時間切れだ。流石に足並みを合わせようって事で、ここからは攻略がゆっくりになる、もとい、ボス戦の準備が本格化するらしい。大丈夫? 睡眠時間足りてる?

 その辺は多分各自ちゃんとしている、筈。と、信じる、にはちょっと弱い事を考えながらリアルでも寝て、日曜日午前中のログインだ。


「今回はうちのクランも全員揃ってる筈ですからね。決戦に辿り着くという前提ですし」


 一緒に行くのはエルルとニーアさんだ。ルウとルピはお留守番である。枠が余るが、まぁ仕方ないね。サーニャなら好感度的に「乗り物枠」に入らないかと思ったんだけど、検証してないんだよな。

 儀式的な意味での出力が必要かと思ったので、ちょっとスカート部分の丈が短く、ふくらみも抑えられたデザインのドレスを着ていく事にする。性能は、うん。アラーネアさんとヘルマちゃんの合作って時点で察してほしい。

 ようやくなんとかサマになってきたレイピアを左腰に下げて、各種アクセサリを確認。もちろん「月燐石のネックレス・幸」もつけていく。外すという選択肢はない。


「さて、と。……“拉”ぐの方の言い分は聞いていますが、“蝕”むの方はどんな理屈で侵略してきているのやら」


 まぁどんな事を述べるにせよ、理解できないししてはいけない類なんだろうけど。




 ルイシャンに乗せてもらって扉をくぐり、さっさか移動。ニーアさんは元から滅茶苦茶速いし、エルルも順調にステータスが伸びているらしい。しかしこうやって移動すると、距離が縮んだのがよく分かるな。

 どうやら通路でできた迷路の上に蓄積されていたリソースはほとんど削り切ったらしく、今も大部屋に召喚者プレイヤーがいる筈だが、巨大モンスターの出現が散発的になっているようだ。それでも出てこないという訳ではないので、ある程度の戦力を置いておく必要はあるが。


「でー、それを俺が担当するって訳だ!」

「あ、中にはついてこないんですね」

「その場にいるだけで積み込まれる状態異常はな? 数を操る戦い方の天敵なんだよ!」

「知ってます」


 北国の大陸、東側海岸線の防衛戦でわざわざダメージ床を作ったのは、まさにそういう理由だったからな。まぁ通路でできた迷路の手前、立体迷路があった場所なら、既に大分積み込まれる状態異常も緩くなっているようなので、「第四候補」も本領を発揮できるのだろう。

 なお、後の3人は「拉ぎ停める異界の塞王」の方を担当している。ステータスの暴力を振り回す、魔法アタッカーも出来るタンクは頼りにされているようだ。まぁ竜族の『勇者』エルルっていう切り札もセットなんだから、妥当か。

 召喚者プレイヤーが大部屋へのスロープ前で集まっているが、その先頭へと案内される。なるほど、文字通り旗印になるらしい。……私の紋章が入った旗でも用意しておけばよかったか?


『――――それでは、これより――イベントダンジョン、最終探索を、開始します!』


 キィン、というハウリングのような音と共に、司令部からの号令がかかる。私はそれを聞いて、ルイシャンにまたがったまま軽く後ろを振り返り、レイピアを抜いて高く掲げた。


「それでは、行きましょうか。――1万年の、決着をつけにっ!!」

「「「おおおぉぉおおおおおおおっっ!!!」」」


 鬨の声を受けて正面を向き、レイピアは斜め前に掲げたままルイシャンに突入してもらう。ドドドドド、と、後ろから一気に走る音が続いているので、ぶつかったり喧嘩したりする事なく続いてくれたようだ。

 こういう時に魅せてこその皇女ロールだよね。皆ノってくれて良かった。

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