第1047話 37枚目:ルート発見

「カウント開始します! 残り、10、9、8――」


 私から見て後ろからくるモンスターと戦っているカバーさんから、カウントダウンの声が聞こえてきた。ソフィーネさんは私と同じ方向を向いているので、私から見ても、その、扉大の枠、というのは正面からくる筈だ。

 だからその声が「5」を告げた瞬間に杖を前に出し、声を張った。


「いきます! ――[タイダルウェイブ]!」


 瞬間、前に出ていたエルルとルウが、後ろへ飛びのいた。入れ替わるようにして発生したのは、広い筈の通路を埋め尽くすような、特大の高波だ。いくらモンスターが多くとも、重量の影響を受けるのは召喚者プレイヤーとその仲間だけである。そして、通常の人形程度の重さで踏みとどまれるような勢いではない。

 とはいえ。実はこの魔法、他の同レベルの魔法と比べて火力という意味では一歩劣ったりする。その分範囲が広い訳だが、今回必要なのは殲滅だ。

 の、だが。それはあくまで、この魔法単体ならば、という条件が付く訳で。


「ルイシャン!」

「ピュィイイイイイッ!!」


 私が放った魔法と同じか、それ以上の魔力を持って行ったうえで、ルイシャンが、その、大きな水の塊、とも呼べる魔法の中に、雷を叩き込んだ。

 フリアドにおいて、それを上書きもしくは無視する方法が多いだけで、物理法則は普通に存在している。そしてその代表である魔法は、術者同士に何らかの繋がりがあると、相乗効果が発生しやすくなる。

 まぁつまり。水は電気をよく通すし、それが私の魔法であるなら、威力が減衰するどころか増幅して伝わっていく訳だ。


「よし、見えましたね。景色のせいか、思ったより速いように見えますけど」


 結果として、綺麗さっぱり私の目の前に群れていたモンスターは一掃されて、広い通路が良く見えるようになった。という事はすなわち、壁を高速移動している、扉大の枠、というのも、よく見えるようになる。

 実際、かなり遠いが、壁を文字通り滑るようにして、扉大の枠っぽいものがこっちに近づいてきていた。しかしその速度は、遠近感がうまく働かないのか、思ったより速い。気がする。

 あの中央に凹みがあると聞いているが、流石に見えない。だがそうしている間にもカバーさんのカウントダウンは進み、その、扉大の枠、というのもこっちへ近づいてきて――。


「0!」

「っせぇいっっ!!」


 ――ソフィーネさんの、掌底のような動作で、スイッチが壁へと叩きつけられた。ダァン! という大きな音がする。もし外れたら、いや、少しでもずれていたら、スイッチ自体が壊れてしまう可能性も高いが……。


「……上手くいきました、かね?」

「そ……そう、みたいですね。緊張しました……」


 モンスターの群れは相変わらず襲い掛かってきていたが、それは一旦放置して。黒々とした、扉大の枠、とやらは、ソフィーネさんの手を中心として、完全に止まっていた。これはたぶん、ちゃんと「鍵」を使えたって事だろう。

 これなら【王権領域】は止めても大丈夫かな。いやいっそ【調律領域】もひっこめて、周囲の様子を見るべきか。今の状態だと、スイッチが効果をなくしたかどうかが分からないし。

 もちろん周囲では激しい戦闘が続いているが、それでも様子見は必要だ、という事なのか、カバーさんも近寄ってきた。


「しかし、「鍵」を使った割には特に何も変化が――」


 言いかけた、瞬間。パカッ、という感じで、扉大の枠だった場所が、壁の向こうへと倒れて消えた。ソフィーネさんは手をついていたが、軸はこちらに残していたようで、揺れはしても倒れない。

 こうなる? と思いながら、パカッと開いたその空間に目を向けると



 突然、その中へと吸い込まれる形の、非常に強力な風が発生した。



「エルル!!」


 こうくる!? と思いながらもエルルを呼ぶ。同族補正でそこに込めたお願いも聞き取ってくれたらしいエルルは、即座に身をひるがえし、ルウとルウが乗っていた馬相当の生き物、ケルピーのルピを抱えてこちらに来てくれた。

 同時に私の声はニーアさんにも届いていたらしく、こちらは風を操ってソフィーナさんと、召喚者プレイヤー組3人の馬相当の生き物を守りつつ運んでくれる。


「お嬢っ!!」

「すみません!」


 まぁ、もちろん怒られるんだけどね。

 だがまぁとりあえず、どうにか全員欠けずに、隠し部屋、あるいは隠し通路へ、飛び込むことになったのだった。

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