第1022話 37枚目:大物ボス戦

「ちぃ姫さん、状況はどうなっていますか!?」


 エルルが早々に意識を切り替えてこの場で戦うつもりになっているようだが、召喚者プレイヤーの方はそうはいかない。連絡手段も共鳴石の音叉に戻っている以上、情報の共有や指示のやり取りにも時間がかかるからな。

 その辺をざっくりまとめてからカバーさんは来たのだろうから、数秒で混乱の中を抜けてこれたのは本当にありがたい。


「ざっくり説明しますと、防衛目標私、討伐目標あの大物、特殊条件がこのラインの状態、でしょうか」

「……。なるほど、全体に通達します。皆さん!」


 私の雑極まる説明でも、カバーさんは理解してくれたらしい。声を張り上げての説明に入ってくれた。

 カバーさんは『本の虫』時代から有名だし、集まっている召喚者プレイヤー達もベテランが多い。足りないところを的確に補填して紡がれた説明に、一気にやる気を増しているのは『可愛いは正義』所属の召喚者プレイヤーだろうか。

 見えない壁の残りはもうほとんどない、というところで説明が終わり、とりあえずざっくりと私、及び一枚板になった石板を守る形に召喚者プレイヤー達が展開する。


「まぁ私も働くんですけど。見えない壁の消滅と同時に領域スキルを展開します。感覚の変化に注意してください」

「「「おう!!」」」


 やる事が決まってしまえばあとは早い。問題は、相手の強さがどれくらいか、なのだが。

 ……そういえば、もう1つのイベントダンジョンは阻止出来たんだろうか。魔力出力だけで言えば、「第二候補」と「第四候補」でも出来そうだけども。

 その辺もすぐ情報が入らないのは不便だな。と思っている目の前で、見えない壁の最後の数センチが光の粒となって消える。それに合わせるようにして、その向こうにいた巨体が、ずるりと動き出した。


「融合された大型モンスターは2体、最悪11体が融合されていたことに比べれば随分とマシな筈です! ここで倒しましょう!!」

「よっしゃ!!」

「やったらぁ!!」

「ちぃ姫を守るわよ!!」

「ボス戦じゃーっ!!」


 カバーさんが最後に気合のダメ押しをして、それにそれぞれな声が上がったところで――広い通路と、その奥の更に広い部屋という場所で、ボス戦が始まった。




 結果。


「いやー……死屍累々というか、すごい状態になりましたね……」

「まぁ、勝利は勝利です」

「時々わざと攻撃を食らってるやつがいなかったか?」


 うん。まぁ。勝ったよ? 流石にここで負けてらんないよね。そのつもりで準備してたんだし。……一応死に戻りの覚悟は決めてたけど。

 予想外だったのは、あれ。大物の体力が半分切ったぐらいの時かな。煙みたいなのを周囲に噴き出して、それをもろに食らった召喚者プレイヤーがゾンビっぽいモンスターになっちゃってさ。しかもスキルとステータスがそのままなのか、アビリティをこっちに連打してきてね?

 なお中身の召喚者プレイヤーはその、ゾンビ化(?)した時点で死に戻ってたらしい。ログを確認したら、例の状態異常がすごい桁で積み込まれてたんだってさ。


「ある意味予想通りではありましたね……」

「そうですね。正式名称まで出てくるとは思いませんでした」


 ちなみに、そのゾンビ化(?)した召喚者プレイヤーを【鑑定】した結果の名前が、「蝕み毒する異界の喰王の僕」だったので、こちらも確定である。やっぱり“蝕”むだったか。

 で。そのゾンビ化(?)も厄介だったし、モンスターを周囲から集める能力も健在だったから、戦場がほぼ乱戦状態になったから大変だった。カバーさんが素早く【調律領域】による効果の違いで敵味方識別をするように叫んでくれたから、ギリギリ同士討ちは避けられたけど。

 あとは、私が捕まった魔力のライン。あれはどうやら、大物にダメージを与える事で魔力を押し返す事が出来て、押し返したらその分だけ体力を削れ、さらにそこにダメージを与えて、という繰り返しをする為のものだったようだ。


「……これ、もし間に合わなかったらどうなってたんですかね?」

「おそらく、ある程度最初に削るのが大変困難になっていたのではないでしょうか。魔力による押し返しのない状態でダメージを与え、体力を削る必要がある、という事でしょうから」


 まぁそんな感じだったので、召喚者プレイヤー全員の疲労がすごい。砦の存在って大きいね。大物の相手は平地でするもんじゃないな。


「とりあえず……ものすごく気になるものはありますが、一時撤退しましょうか」

「そうですね。調査班はまた後程編成して向かってもらう事にしましょう」


 で、大物を倒してその体を解体し、部屋がすっきりしたところで何が見つかったかというとだな。

 …………めっちゃでっかい上に、おどろおどろしい装飾のされた、ごっつい両開きの扉が、一番奥の壁に待ち構えてるんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る