第1023話 37枚目:扉の向こう

 結構戦闘に時間がかかったし、そもそも消耗が酷いって事で、流石にそのまま扉に突貫、という事にはならなかった。確実に節目ではあるだろうし、準備が整わないまま下手に触って、モンスターの大群があふれ出てくる、なんてことになったら戦犯ものだからな。

 というかそれ以前に、もう1つのイベントダンジョンでの戦闘が続いていたから、そっちへの応援が先だった。どうやらあちらは「第四候補」がかなりギリギリのところで魔力を注ぐ事に成功したらしいが、最初の混乱で結構な人数の召喚者プレイヤーがやられてしまったようだ。

 戦闘力では群を抜いている「第二候補」と、広域バフ能力のある「第五候補」が揃っていても、流石にキツかったらしい。


「いやいや無理無理あれは無理。まさかあんな方法で手駒化されるとか思わねーじゃん!? なんなのあれ、プレス成型かっつーの!!」

「プレス成型、ですか……」


 どうやらそんな感じで「僕」と名前の付くモンスターに変えられた召喚者プレイヤーが大量に出たそうだ。もちろん中身である召喚者プレイヤー自身は死に戻りしていたそうだが、その「僕」の形が、あの「拉ぎ停める異界の塞王」の形をしていたらしい。

 形を変えるってそういう事か、と理解したくなかった事実を理解して、いつもよりちょっと早めにログアウトである。夜にもう一回時間を合わせる事になったからね。


「準備と人数的にも妥当なところでしょうし……」


 という事で、夜のルーチンという日常を急ぎめにこなしてログインだ。お盆休みが終わりに近いという事で、召喚者プレイヤーの士気も大変高い。ボスが出てきても、なんならそのまま殴りに行きそうだ。

 まぁボスであったとしたら、まだギミックが残っているだろうけど。だって救出対象が足りないんだよ。

 『アウセラー・クローネ』としてのチーム分けは、「第一候補」が向こうに行って「第四候補」がこっちに来た。まぁ儀式的もしくは領域的な対処が必要になるなら、そうなるか。


「で、扉はどんな感じですか「第四候補」」

「んー、向こうとはちょっと違うけど基本は同じっぽい。つまり鍵も罠もなし、おいでませって歓迎モードだ!」

「まぁ実際くぐってみたら異界の理とモンスターの群れが歓迎してくれるんでしょうけど」

「それな!」

「それは歓迎なのか……?」


 歓迎だと思うよ。意味が大幅に間違ってる方の使い方だけど。ゲーム的に言えば本来の意味でも間違いではないかも知れないが。

 まぁともかく。とりあえず素の状態を確認してみようって事で、領域スキルの展開は無しだ。各自が個人でかけるバフや祝福はかかっているが、一応余力を残した形だな。

 ログイン時間も合わせてきたし、準備も万全だ。という事で、何故か私が代表で扉を開くことに。……まぁエルルも納得してるみたいだから、いいんだけど。


「さて、それでは行きますよ」


 巨大な扉なので問題ないだろうと、ルイシャンに乗せてもらったまま扉に触れる。「第四候補」いわく、この扉は取っ手がないくせに外開きらしい。面倒だが、それならそれでと装飾の一部を掴む。

 そのままルイシャンに後ろへ下がってもらうと、割とあっさりと巨大な扉は開いていった。見た目からすると随分と軽い。……私のステータスのせいじゃないぞ。それならルイシャンがここまで軽々動ける訳がないからな。

 両開きの片方だけを開く形になったが、どうやら扉は連動していたようだ。私は扉に向かって右に移動する形で扉を開いていき、その向こうに見えてきたのは、というと。


「…………なるほど。この迷宮然とした石造りの通路と部屋は、「こちら側」であると同時に「前半戦」でしたか」


 風景画を一度ちゃんと描いてから、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような。

 地面、植物、動物、そういうものがそれぞれに存在してはいるものの、その境目を酷く雑に混ぜ合わされてから大きさだけを合わせたような。そんな、はっきり言って見ているだけで気分が悪くなる……明らかに「モンスターの『王』」、「蝕み毒する異界の喰王」の領域と分かる、光景だった。

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