第986話 35枚目:小細工確認

 という事で、主に私は高難易度と判定された野良ダンジョンを潰して回っていたのだが、時々なんというか、妙な違和感を感じるダンジョンに当たる事があった。

 野良ダンジョンの難易度は、大体入り口の様子で分かるようになっている。灯りがあって広々としていれば簡単で、暗い上に扉なんかが付いていれば難しい、という感じで、これはたいていの召喚者プレイヤーが知っている法則だ。

 なの、だが。妙な違和感を感じる、というのは、入り口が開けていて篝火が焚かれていたりするにも関わらず、高難易度と判定されている、というものだ。そして実際突入してみても、高難易度というのは納得しかない、のだが。


「ダンジョンの名前も比較的平和ですし、少なくとも見た目情報からは、ここまで難易度が高いとは思えないんですけど……」


 共通項と言えば、その頭に「終わらない」という文言が入っていることぐらいだが……少なくとも検証班が把握している範囲では、突入失敗、あるいは撤退の事例が1件あるだけの筈だ。

 流石にフリアドの運営がその辺の「お約束」や「既に広まった常識」を覆すことをするとは思えない。『自由』というのは「責任」と表裏一体だ。だから、自分が言い出したルールに例外を後出しする事はないだろう。

 ほかに考えられるのは、司令部に報告する前に誰かが挑戦して、クリアして、封印しなかったという可能性だが……まぁ、一般召喚者プレイヤーがそんな事をする必要や理由は、無い。それにクリアしても封印に失敗したのなら、それはそれで情報が上がっている筈だ。封印の難易度が高いとかで。


「……状況からの推測でしかありませんが、やってくれましたね」


 つまり消去法で、「わざと」ダンジョンの難易度を上げた誰かがいる、という事になる。でもって、ダンジョンの難易度を上げる必要や理由があるのは、今のところ……ゲテモノピエロ率いる『バッドエンド』だけだ。

 封印されていた邪神の神器を回収して以降はちょっと大人しくなっていたが、動き出したらしい。たぶんだが、神器に関する調整やチャージが終わったんだろう。

 既に「モンスターの『王』」と再度手を組んでいることは分かっている。だからどこをどう狙ってきてもおかしくない状態だ。この難易度を上げる小細工も、小手調べの時間稼ぎだろうし。


「封印されていた神器が特定されたら、アキュアマーリさんおねえさまに頼んで失せ物探しの魔道具を貸してもらいましょうか……どうせ隠蔽ぐらいはしているでしょうけど」


 本当に。能力があるにもかかわらず、MMOというゲームの性質上ほぼ全方位に迷惑しかかけない種類の自分の趣味へ全力投球してるから、面倒極まりない。




 ウィスパーで一応カバーさんに確認を取ったところ、司令部(というか検証班こと元『本の虫』組)では既に同じ結論が出ていて、その想定で対処に動いているとの事だった。まぁすぐ察しが付くよな。

 なお、難易度がおかしい事に気づいた一部召喚者プレイヤーも気付いたようだ。そこからこっそり検証班に確認を取り、対『バッドエンド』協力協定が動いているらしい。

 フリアドには録画専用で使い切りとはいえ、既に監視カメラと言っていい効果の魔道具が開発されている。そこからの進化模様を私は知らないが、恐らくかなり性能は上がっているのだろう。


「それに、魔族の人達の協力もありますからね……」


 いやぁ。空間への干渉が得意って時点で強いのに、たぶんだけど、監視カメラの魔道具に使われている魔法的仕掛けを説明したんだろう。どうやら、特定の空間の過去を見る、って技術を、一部の魔族の人が習得したみたいでね……?

 その画像……というより動画か映像だな。それを解析して、ダンジョンへの出入りを繰り返しているのに、そのダンジョンに関する報告を上げていない召喚者プレイヤーを特定することに成功したんだってさ。

 ちなみにまだ捕まえず、細心の注意を払って泳がせているとの事。まぁどうせなら替えがきかない部分にダメージを与えたいよね。


「なお、難易度。……それでも、多少は組織としての体力を削いでおきたいところです。新人が入ってきて、その内いくらかは吸収しているでしょうし」


 本人に自覚のない下っ端とか、あの口車にのせられて言いくるめられてほいほいそっちに付いて行ってしまったとか、そういう相手を間に挟んでくるだろうけど。

 ほんっと、なんでその人心掌握の手腕をまっとうに使わないのか。……趣味か。趣味だな。趣味だった。

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