第978話 34枚目:共通項

 見つかった「拉ぎ停める異界の塞王」という鑑定結果が出た白い少女をエルルに託し、ワイアウ様のもとへ連れて行ってもらったところ、案の定そこそこ前に行方が分からなくなっていた竜族の人に戻ったらしい。

 なおそこからしばらくすると、どうやら病を始めとした傷以外の外的要因で体中がボロボロになった竜族の人が発見されたという報告があったらしい。とりあえずその場でできる限りの処置をした後、頑張って連れて帰り、現在静養中だとのことだ。

 そしてこれらの発見報告が、連続挑戦回数が400回を超えてからしか発生しないことから、次に楔を打ち込むのはそこにしよう、という空気になっている。まぁ救出対象だし、明らかに相手の重要リソースだもんな。


『此度は突然の訪問、及び対談の時間を取って頂き、誠に感謝致します』

「こちらこそ、御使族の方直々の訪問ですもの。私共に出来る事でしたら、喜んで協力させて頂きますわ」


 で、それが確定したのが水曜日、次の楔を打ち込むのは前回と同じタイミング、というところまで話し合いが進んだところで、私は「第一候補」と共に、アキュアマーリさんにアポをとって訪問していた。

 なお流石に身内同士の気楽な感じという訳にはいかないので、アキュアマーリさんのプライベートエリアではあるが、以前私が訪れた時とは違い、正式な来客用の部屋だ。

 私はアポ取り要員なのだが、事ここに至るまでの経緯と、このタイミングで「第一候補」が動いたってことを考えると、ちょっと聞いておいた方がよさそうだってことで同席している。


「(ルミルちゃん? ルミルちゃんはそっちなの? お姉さんのお膝に乗らないの?)」

「(かなり真面目な話ですので緊張感を維持してくださいお姉様)」


 ……そんなアイコンタクトがあったりしたが、話の内容的には大変真面目なのだから、皇女としての態度は崩さないでほしい。対面しているのが本人デフォルメとはいえぬいぐるみだが、これすごく真面目な場面だから。

 何とか表面上は真面目な話は、まず「第一候補」から、特殊な試練を長く深く進んだ先で、行方不明になっていた竜族の人達が発見されたという報告から始まった。まぁこれはアキュアマーリさんも知っているだろう。

 そしてその話は、それらの発見報告から聡い召喚者プレイヤーなら覚えていただろう引っ掛かりへと進んでいく。そう。何故なら見つかる竜族の人達には、2点ほど共通点があったのだ。


『――今のところ。発見されるのは、「特殊な水路」ないし「地域」を守る役目を担っていた者ばかり……それも、これまた全てが「砦の内側に居たにもかかわらず攻撃を受けて」行方不明になっております』


 シンリィさんを始めとした「モンスターの『王』」に捕らわれていた竜族の人達は、皆そうだった。確かに防衛戦は激しく、モンスターの一部が抜ける事はあっただろう。

 だが、それにしたって確率がおかしい。そもそも、捕らえる必要が分からない。確かにリソースの元にはなっていたが、いくら何でも偏りすぎだ。

 となれば、そこには何か理由があるとみるべきだろう。だが、救助された彼らは「特殊な水路/地域」についての詳細を、絶対に口にしなかった。竜族がそこまで頑なになる、というものは、そう多くはない。


『よって。我らが立てた推測は、かの地で竜族が守っている、非常に特殊な場所、地形、あるいはそこから得られる特別な何か。それが、侵略者の狙いだというものです。それが分かれば、相手の動きが多少なりと読めるやも知れませぬ』

「……それを、私が喋るとでも?」

『皇姉様におかれては、召喚者が情報を必要とする。その意味をもっとも良くお分かりかと』


 っていう事なんだよな。ちなみにアキュアマーリさんは別に喋らなくてもいい。誰かが教えてくれるまで、それこそ竜皇様への謁見までぐらいなら順番に回っていくつもりをしている。それでもダメなら私が「個人的に」皇女権限を使ってお城の図書館で調べものするだけだ。

 なので、本当に外部には出せない情報、それこそ皇族のみ、あるいは竜皇様だけに受け継がれる秘伝だっていうなら、素直にちゃんと諦めるので安心してほしい。

 ……という内心は同族補正で伝わっている筈なので、アキュアマーリさんの判断次第だな。え、むしろ竜皇様にまで話を持っていくつもりだっていうのは逆にプレッシャーではって? でも実際誰も教えてくれなかったら最高権力者に聞きに行くしかないじゃない?

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