第977話 34枚目:攻略再開

 お昼休憩という名のログイン制限待ちの後、早速イベントダンジョンのショートカットを利用してみた。どうやら本業は休みらしい「第二候補」がついてきたのを皮切りに、『アウセラー・クローネ』の召喚者プレイヤー組フルメンバーでの挑戦だ。

 と言っても、全員一致で選んだショートカットは超大部屋モンスターハウス。これは「第二候補」と私の超広域攻撃で8割方片付いてしまったので、ほとんど時間はかかっていない。今までとは雲泥の差だ。

 連続挑戦回数の一気に250になったので、もちろんそこから先に進んでいく。戦闘力的には余裕だから、進めるようになったんなら進まないと。


「しかし相変わらず面倒な迷路ですね……」

「使い魔も相変わらず迎撃されるしなー。「第三候補」か「第二候補」、迷路ごとぶっ壊して平地にできねぇ?」

「やろうと思えば出来んことはないじゃろうが、その後が続かんのう。壁の硬さが更に増しておるわい」

「正攻法推奨、って事ね~。色々と、主に情報的なあれこれが足りない気がするけど~」

『時間いっぱい進んで、またそこで楔を打ち込むまでの辛抱である』


 なんて会話しつつ進んでいく。フルメンバーってことで、「第五候補」が「第一候補」を抱える係だ。私は前に出て、交代でタンクのお仕事をしている。なお普通にバックアタックもあるので、後ろに行くこともあるけど。

 流石に喋りながら片手間に戦闘、という訳にはいかないが、それでもまだまだ探索の比率の方が高い。今はフルメンバーだからいつもより余裕があるとしても、進むのに支障はない、と言っていい。


「しかし、いくらショートカットが可能だとは言え、偶発レイドが発生するタイミングは1000を超えてから、とかでなければ良いのですが」

『流石にそれはあるまい。難易度の上がり方も加速がついている故、恐らく500には何かあるであろう』

「それも十分遠いんですけどね」


 今回の挑戦はフルメンバーだし、ショートカットもできて時間に余裕があるし、このタイミングで進めるだけ進んでおきたいんだよな。先を見るって意味でも。もしレイドに遭遇しても、一番返り討ちにできるタイミングだし。




 なんてことを考えていたから物欲センサーが仕事をしたのか、その時の挑戦では特に何も出てこなかった。連続挑戦回数は250+211で461回。微妙なところで止まったのは純粋な難易度の上昇に加え、迷路の作りが大変複雑だったからだ。

 神の加護が封じられる、という時点で薄々覚悟していたのだが、400回を超えたところでオートマップが使えなくなったのが大きい。【測量】やその上位スキル【作図】でも正確な地図は作れるが、やはり手間がかかる。

 設定が設定なので毎回ランダムな構造だし、こう、出口の方向が分かる魔法とかないかなーって感じだ。もしあったら、それはそれでぐるっと回って鍵を集めなければいけない、とかいう構造になるんだろうけど。


「で、偶発レイドに遭遇したことは遭遇しましたが……」


 翌日日曜日の夜の挑戦までで、合計5回の偶発レイドに遭遇した。どうやらほかのパーティと同じステージになっても、その後はバラバラになるらしい。そういう事だから、一度の挑戦で偶発レイドが複数回発生することもあるようだ。

 遭遇したうちの4回は、今まで最前線を押し込んで防壁型の砦を建設していると出てきた、推定湧きポイントが変じた超巨大なモンスターをレイドサイズにしたものだった。それはまぁ予想の範疇というか、出てくるだろうなと思っていた通りの相手が出てきただけだから問題ない。

 ただ、最後の1回。連続挑戦回数が400回を超えたところで、かつ合流したパーティが3つだった場合に出てきた偶発レイドが問題だった。と、いうのも、だな。


「……あれ、どう見ても「拉ぎ停める異界の塞王」でしたよね?」


 あの、北国の大陸攻略、その最後に不意打ちで現れた、見た目だけは嫋やかで上品な真っ白い少女の形をした「モンスターの『王』」だったのだ。

 しかし本人かと言われると、たぶん違う、としか言えない。傘を持っておらず、カクテルハットも頭にのせていなかった。という細かい違いのほかに、指一本動かす事がなかったからだ。


「そうですね。彼らも異論はないようですし、『アナンシの壺』で公開されているイベント映像とも合致します」


 なお彼らとは、偶発レイドへ挑戦するにあたり、偶然一緒になって共に挑んだ召喚者プレイヤー達の事だ。まぁ、だよな。ここにきてるってことはあの楔を打ち込む儀式の場に、少なくとも代表者がいたはずだし。つまりトップ召喚者プレイヤーってことだから、最前線で「拉ぎ停める異界の塞王」を目撃している筈だ。

 そしてボス部屋には、「拉ぎ停める異界の塞王」の能力と同じだろう、時間経過で体が重くなっていくデバフと、十分に動くのが厳しくなる重力があった。その中で大型のカクカクしたデッサン人形と戦う、その背後に微笑んだ状態で立っていたのだ。

 【鑑定】しても名前は「拉ぎ停める異界の塞王」だったし、体力バーも表示されていたから、敵ではあるんだろうが……。


「あの時の事がありますからね。……とりあえず捕まえましたし、どうやらダンジョンとしてのボスは人形の方だったみたいですし、ワイアウ様のところに運びましょうか」


 まだ時間に余裕はあるが、撤退だな。住民の救出案件だから。……というかもしかしてこれ、この調子でいけば、いわゆる残機を削れるんじゃないか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る